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ファルネーゼ宮殿内のスカルピア男爵執務室
−1800年6月18日 火曜日 午前0時頃−
遂にカヴァラドッシは政治犯隠蔽と国家反逆の罪で連行されてしまった。
愛する者と引き裂かれてしまったトスカはカヴァラドッシが出ていった扉の前ですすり泣くばかりであった。
スカルピア男爵は扉の前ですすり泣くトスカに勝ち誇ったような顔で話しかけた。
「さあ、やっと二人きりになれましたね・・・」
「お願い! あの人を助けて・・・!」
「おや? 私が? 助けるのは貴女ですよ・・・
プリマ・ドンナ フローリア・トスカ!」
「何ですって!?」
「その事について二人で話し合いましょう。(テーブルを指して)さあ、こちらへ・・・
」 |
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そう促されてトスカはテーブルに着いた。
「で、いくらなの・・・」「”いくら”・・・とは?」
「とぼけないで!
金・・・
身代金や!」
「はっはっ・・・ 私も見くびられたものだ!
そのようなチンケな木っ端役人と一緒にされるとは・・・
私は確かに”袖の下”に弱いとは言われているが、貴女のような美女を前にして金をせがむような男ではありませんよ・・・
そう、貴女にはほんのわずかな報賞で報いてあげましょう!
それは・・・
今宵、貴女が私の”もの”になることです!」
と、言ってスカルピア男爵はトスカに明らかにそれと分かる欲望の眼差しを向け出した。

<スカルピア男爵「欲望のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号46番1小節目〜14小節目まで)
「な、何やて・・・!」「そう・・・
君のような、私を心から嫌う気の強い女こそ私にふさわしい!」
スカルピア男爵は立ち上がってトスカににじり寄ってきた!
「い・・・ いや・・・ 近寄らんどいて・・・!」「私のものだ・・・
わしの女だ・・・!」「(窓に向かって)こんなんやったら・・・
飛び降りて死んだ方がましや!」「愛するマリオの命は君次第なのだよ・・・」
「(そうや! 王妃様なら・・・
うちの願いで・・・!)」
トスカは扉の方へ駆け寄った!
が、スカルピア男爵はトスカの考えを見抜いていた。
「ほう・・・ 王妃様に恩赦を求めるのか・・・?
それもいいだろう。だが、間に合うかな・・・ 我が僕はすでに用意に取りかかっている。恐らく、王妃様は天に召された後の抜け殻に恩赦を与えるだろうね・・・」
「(な、何やて・・・ そんな・・・
それやったら・・・)」
その言葉を聞いてトスカは愕然とした!
「そう! 貴女に残された選択は・・・ (更にトスカににじり寄って)わしの女となることだ!」「い、いやーー!
不潔や! 近寄るよらんどいて!」
更にスカルピア男爵はトスカに近寄り、トスカを抱き締めてキスしようとした!
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「わしの女となるのだ! なるのだぁぁーー!」
「いやぁーー! やめんかワレがぁーーー!」
「いいぞ! いいぞ! わしを強烈に憎む・・・
そんなおまえがたまらなく欲しいのだ!
これぞ我が快楽・・・!」
「何するんじゃーー!
放さんかぁーーワレェーー!」 |
(タン!
タタタン!タタタンタンタン!・・・)
と、その時、外から行進曲のリズムを刻む小太鼓の音が聞こえてきた。
その音を聞いて、スカルピア男爵はトスカから離れ、脅迫するような口調で話し始めた。
「さあ、トスカよ! この音が聞こえるか・・・!
死刑囚を絞首台へと導くこの太鼓の音が・・・!
おまえの恋人は、まあ君次第だが・・・ あと1時間ほどで・・・」
トスカは絶望の余り愕然として、その場にへたり込んでしまった。
そして、無駄とは分かりつつも、神への嘆願を口にし出した・・・
<歌に生き、恋に生き>
(演奏箇所:練習番号51番1小節目〜53番1小節目まで)
(注意:MIDI音源によっては音色等が変わるかもしれません。)
| 「神様はなぜ・・・
何で、うちが宝石やマントを聖母様に捧げたり、貧しい人たちに施しを与えたり・・・
こんなに尽くしていたのに・・・
何でこんな仕打ちをするんや・・・ 何でや・・・
これが”試練”というものなんか・・・?」 |
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スカルピア男爵はそんなトスカの落ちぶれた姿には構わず、決心を促せた。
「(フン! 典型的な弱者のパターンだな!
神に願っても無駄!無駄!無駄!無駄ぁー!)さあ、どうするのだ!」
「(手を祈る仕草で組んで)さあ、よく見いや・・・
あんたのお慈悲を待ってるんや・・・!
うちは負けたんや・・・
この姿が見たかったんやろ・・・!」
「(フン!次はやけくそか・・・)ほう・・・
いいでしょう・・・ では、交換条件成立ですな・・・
君は恋人の命を、私は貴女との一夜を得る・・・(トスカににじり寄る)」「(軽蔑の眼差しで)いや・・・
近寄るな・・・ この変態オヤジ・・・!」「(ますます目つきが変わって)いいぞ、いいぞ・・・
もっとわしを憎め!
わしを殺したいほどにな!」
(バンバンバンバン!)
と、その時扉を荒々しくノックする音が聞こえた!
「(ええい! 誰だ! いいところだったのに・・・!)何だ!」
アンジェロッティ再逮捕に向かっていたスポレッタが戻ってきた。
「はっ!
我々が井戸の中に踏み込もうとしましたところ、アンジェロッティの奴は服毒自殺しました!」
「何だと! ええい、屍でも構わん!
絞首台にぶら下げておけ!」「はっ!」
「それから、もう一人のほうは?」「カヴァラドッシですか?
準備万端!
もういつでもオッケーです!」「よし!」
「(トスカのほうを見て)さあ、どうしますか・・・?」
「(絶望に打ちひしがれて)はい・・・
でも、確証は・・・!」
「私がここでこの男に命令します。残念ながら立場上明確な恩赦は与えられませんが・・・
(スポレッタに向かって)おい、スポレッタ!
(取って付けたように小声で)・・・”極秘指令”だ!」
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「処刑方式変更だ!奴はサン・タンジェロ城にて銃殺刑にする。(いかにも意味ありげに)ただし空砲で・・・
偽りのな・・・」
「はっ! かしこまりました・・・!」
「(意味ありげに)いいな・・・ 頼んだぞ・・・!」
「(ほくそ笑みながら)ええ、ご心配なく・・・」
「私も連れて行かせて!」「いいでしょう・・・」 |
スポレッタは、手筈を整えるべく、そそくさと出ていった。
スカルピア男爵は、またトスカににじり寄りながら欲望の眼差しを向けた。
「さあ、トスカ・・・!
わしは約束を守ったぞ・・・!」
「(さっと引いて)まだです・・・
旅券を発行してください・・・
この呪われた地を離れたいのです・・・
すぐに! 永久に!」
「(ほくそ笑みながら紳士風の口調に戻って)ほう・・・
なるほど・・・ よろしいでしょう。ではすぐにでも私の名で発行いたしましょう。私の名ですから、お望み通りにかないますよ・・・」
と言って、スカルピア男爵は書斎の机に座って旅券を書き始めた。
「どこから出発しますか?」「近場から・・・」「ではチヴィタヴェッキア(ローマから約70km北西にある港町)にしておきましょう・・・」
トスカはスカルピア男爵が旅券を書いている間、絶望に暮れていた。そして、食卓のテーブルの上を見たとき、そこには食べかけのご馳走とワイン、そして1本のナイフが置いてあった。

<トスカ「絶望と殺意のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号59番1小節前〜14小節目まで)
「(ああ・・・ もうあかん・・・
こんなん・・・ 何でや・・・
神様は何をしとんや・・・
そうや、酒でも飲んで・・・)(グラスワインを一杯飲み干す)(ぷっは〜
ああ、ええ気持ち・・・ でもあかん・・・
もう、うちにはあの変態オヤジの女になるしか・・・)(ナイフに目がいく)」
「(そうや・・・!
神様が何もしてくれへんのやったら、いっそうのこと・・・
あのダボを・・・!)(スカルピア男爵をちらっと見る)(旅券を書いとうな・・・
よっしゃ・・・ 見てへんな・・・)(ナイフを用心深く手に取る)(これは神様がうちに与えてくれた聖剣や・・・!
そうや、天誅なんや・・・!)」
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ナイフを懐に隠し持ったこの瞬間、遂にトスカは、ただ嘆くだけの”哀れな子羊”から自らの運命を切り開く”強い女”に変身した!
そうとは知らず旅券を書き終えたスカルピア男爵は、トスカに遂に抱きつこうと、襲いかかるように迫ってきた!
「トスカぁーーー!
やっと、やっとわしの女になるのじゃぁぁぁーーー!
うおおおぉぉぉーーー!」
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そして、スカルピア男爵が抱きつこうとした瞬間、トスカの懐からナイフが飛び出し、スカルピア男爵の左胸を突き刺した!
左胸に鈍い衝撃と激しい痛みを感じたスカルピア男爵は自分の左胸を見た!
「な・・・ なんじゃこりゃぁぁぁーーーー!」
「これがトスカのキスじゃぁーー!
思い知ったかワレェーー!」
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ナイフは見事に心臓と呼吸器を同時に貫いていた!
止め処もなく胸から、そして口から噴き出す血!
「げごう゛ぉぁー!
た・・・ 助けて・・・ し・・・ 死ぬうぅぅ・・・!(倒れながらもトスカににじり寄る)」
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「(倒れてくるのをさっとよけながら)息できへんのやろが!
うちやマリオを苦しめた罰や・・・!
思い知れダボが!
うちはトスカや!
女に刺されて死んでいくんや!
ざまあみさらせ、スカルピア!
これでうちとマリオは苦しまんとすむんや・・・
自由や!
死ね!
死にさらせ!」
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「(虫の息で)・・・バ・・・カ・・・ぐぁはぁ!
・・・め・・・ じ・・・ ゆ・・・ ごふっ!
・・・な・・・ ど・・・ げう゛ぉぉー!
・・・な・・・ぁ・・・!
・・・!
ぐふっ・・・!」(息絶える)
ポリツィア・セグレタ(秘密警察)の最高権力者にして、ローマの恐怖政治の象徴であった警視総監スカルピア男爵のあっけない最期であった・・・
「死によったわ・・・
このダボの前でローマの人らがみんな震え上がっとったんたんや・・・!」
トスカは血の付いた手をきれいに拭き取った後、屍となったスカルピア男爵の手から旅券を奪い、出ていこうとした・・・
が、
「(そやけど・・・ 最期の情けや・・・
安らかに眠りや・・・)」
トスカは屍の傍らに、ろうそくの灯った2本の燭台を置き、胸の上に十字架を載せて、儀式に則った最期の死者供養を行った・・・
「(さあ、こんな所はよ出よ・・・ えっ・・・?)」
「(何しようと・・・ 所詮わしの掌の中・・・
思い知るがいい・・・ 卑しき羊飼いよ・・・
死ね・・・ 死にさらせ・・・!)」
空耳か、幻聴か、一瞬スカルピア男爵の呪いの言葉が聞こえたような気がした。
「(な、なんかの空耳やろ・・・)」
そして、トスカは部屋を出ていった。
向かうはもちろん、カヴァラドッシの居るサン・タンジェロ城であった・・・
悲劇の”終わり”は近い・・・
<次回に続く>
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