|
ファルネーゼ宮殿内のスカルピア男爵執務室
−1800年6月17日 月曜日 午後11時頃−
この夜、ファルネーゼ宮殿では、王妃マリア・カロリーナを迎えてマレンゴ会戦戦勝祝典行事が行われていた。
その宮殿内の一室、警視総監執務室では、スカルピア男爵が食卓の前に座って、アンジェロッティ捜査のために遅くなった夕食を今取ろうとしていた。
しかし、彼は時々時計を見てはポケットの中にしまうという動作を繰り返しており、何か落ち着かない様子だった。
「トスカはいい鷹だ!
さあ、わしに早く2匹の獲物をもたらすのだ・・・!
チェーザレ・アンジェロッティ!
マリオ・カヴァラドッシ!
わしの下に来たらたっぷりと縄をくれてやろうぞ!
(時計をちらっと見て)さて、作戦第2段と行くか・・・」
スカルピア男爵は呼び鈴を鳴らし、憲兵シャルローネを呼びだした。
「何でございましょうか?」
「トスカは宮殿に入ったか?」
「部下が見に行っておりますが・・・」
「窓を開けてくれ。」
窓を開けると、戦勝祝典行事を行っている下の階からガヴォット(緩やかな舞曲)の心地よい響きが聞こえてきた。
「フン! まだ前座の音楽を弾いておるわ・・・
王妃様を前にしてずいぶんとチンケな音楽だな・・・」
<ガヴォット>
(演奏箇所:練習番号3番1小節目〜5番1小節目まで)
(注意:MIDI音源によっては音色等が変わるかもしれません。)
「さて、シャルローネ。この手紙をトスカに会ったら渡してくれないか。内容を読めばすぐにでもあの女はわしの下へ飛んで来るだろうよ・・・
マリオの愛のためにな・・・」
「かしこまりました。」
| 「さあ、来るのだ、トスカよ!
マリオへの愛を守るために・・・
そして、わしの快楽の下に屈するのだ!
そういう愛の苦しみに悶え、わしのことを忌み嫌う女こそ、わしは求めるのだ・・・
そういう女を手荒く征服することこそ我が快楽!
甘い言葉やポーズで女の気を引くような正攻法はできぬが、わしは神の創った美しいものをできる限り味わい尽くしてやるのだ!
そのためにじゃまなものは容赦なく始末する!
当面はあの2匹のウジ虫、アンジェロッティとマリオだ!
」 |
.jpg) |
そこへ、トスカへ手紙を渡し終えたシャルローネが戻ってきた。
「スポレッタが報告に戻ってきました。」
「何だと!
おお、待っておったぞ!
さあ、通せ!
これでやっと食も進むわい!」
やっと安心したのか、スカルピア男爵は食事をむさぼりながらスポレッタの方を向かず報告を聞こうとした。
スポレッタが妙にそわそわして入ってきた。
「(あ〜どうしようどうしよう・・・
神様仏様お助けを〜)」
「さあ、今夜のヒーローよ。報告を聞こうではないか!」「(ひぃぇ〜
この人すんごい期待している〜
こりゃ絶対殺されるよ〜)」
「私はあの女の後を追ってあの女は人里離れた家へ行きつきましてあの女がその家に入りまた出てきた直後に早速手下とともに家に踏入り・・・」
「(う〜む、えらく早口でまくし立てよるな・・・
大捕物だけにそれだけ興奮しておるのだな・・・)いいぞ、今夜のヒーロー!」
「・・・そして、部屋を嗅ぎ回し!
引っ掻き回し! 重箱の隅をつっつくがごとく探し回し・・・!」
「(なに言うとるんじゃ? こいつは・・・)で、アンジェロッティは!」
「いませんでしたー!」
「アホかおのれはー!!
奴の代わりにおまえが縄にぶら下がれ!!」
「神様キリスト様お助けを〜!」「スポレッタ、代わりに奴を出せ!」「あ、そうだ!それがあった・・・!」
「え〜 閣下! その家の中には男が一人居まして、人をバカにしたような態度でしたので不敬罪で逮捕してきました・・・」
「マリオ・カヴァラドッシか!」「はい〜!」
「フン! まあ、よかろう! 連れてこい!」「(わ〜い!
よかった助かった〜!)かしこまりました。」
憮然とした態度のカヴァラドッシがスカルピア男爵の前に連れてこられてきた。
スカルピア男爵は、シャルローネに死刑執行人ロベルティと査問官(とは名ばかりのただの拷問屋)を連れてくるように指示を出した。
窓の外からは、今夜の戦勝祝典行事のメインイベント、独唱フローリア・トスカによる戦勝記念カンタータ(合唱)の演奏が始まった。
<戦勝記念カンタータ>
(演奏箇所:練習番号13番5小節目〜19番1小節目まで)
(注意:MIDI音源によっては音色等が変わるかもしれません。)
.jpg) |
「何たる暴力だ!
なぜここへ連れて来るのだ! 理由は?」
「まあまあ・・・
さてカヴァラドッシ君、きみにいくつか質問したいことがあってね・・・
正直に話してくれれば手荒なことはしないよ・・・
すぐに帰してあげようではないか・・・ さあ、アンジェロッティはどこにいるのだ?
君が彼の手助けしたのではないのかね?
正直に答えなさい。」
彼は、一見丁重ではあるが、じわじわとカヴァラドッシを詰問し始めた。 |

<スカルピア男爵「詰問(拷問)のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号13番1小節目〜5小節目まで)
「何のことだ? 知らないなあ。(スポレッタを指して)あのバカの誤認逮捕じゃないですか?」
「何だと!
この野郎、こっちが下手に出りゃ・・・」「まあまあ、スポレッタ君いいではないか・・・
さて、もう一度言おう! アンジェロッティはどこだ!
答えなさい!」
「知らんと言ったら知らん!
(トスカの独唱が聞こえてきて)あ、彼女だ。ここに居るのか・・・」
「ええい!
そんなことはどうでもいいだろう!
どうなんだマリオ・カヴァラドッシ!」
「何度言っても同じだ!」「ええい!
このクソ野郎が・・・!」
同じような問答が何度も続き、ついにスカルピア男爵の忍耐の限度が切れた!
「(カンタータの聞こえている窓を見て)ええい、じゃかましいわ!!」
バタン!と窓を乱暴に閉めると、カヴァラドッシに最後の詰問をした。
「これが最後だ!
アンジェロッティはどこだ!」「知らん!」
「(首に手を当てて)あ〜これで絞首刑決定だな・・・」
「マリオ!
どうしたの!
なぜここに来たの!?」
カンタータを歌い終えたトスカが執務室へ飛び込んできた!
「(ふふっ・・・
作戦第2段も成功だわ・・・)さあ!
マリオ・カヴァラドッシ!
君を重要証人として丁重におもてなししようではないか!
(シャルローネと査問官に向かって)さあ、このお方を”貴賓室”へご案内するのだ!」「はっ!」
「(トスカに小声で)いいな、あの別荘で見たことは絶対にしゃべるな!
たとえ、ぼくの身に何が起こったとしてもだ!」「わかったわ・・・」
カヴァラドッシはシャルローネや査問官たちと一緒に「貴賓室」(とは名ばかりの拷問部屋)に入っていった。
「(トスカの方を向いて)おお、やはり来ていただけましたね。ローマのプリマ・ドンナ、フローリア・トスカ様!
さて、ここにささやかな晩餐もあることですし、この私と二人だけで会食を楽しみましょう。」
「(長椅子に座って)ここで結構です。で、何をお話に・・・
マリオをどうする気なんですか?」
「(同じ長椅子に座って)いやいや、どうするもこうするも、これからのあなた方の行動次第なのですよ・・・
あなたは彼の別荘で何を見たか、それをお話しいただければですね・・・
たとえばあのジュリアがそこに居たとか・・・」「私の邪推でしたわ。あの人一人だけでしたよ!」「へぇ〜、本当ですか?」「ええ!」 |
.jpg) |
「本当に?」
「一人やと言うとうやろ!
やかましいんじゃ、コラ!」
「おお!
何という激しさ!
まるで隠し事をばらしたくないような素振りですな!」
「(あら、いけない。また・・・)この私に嘘の証言をしろと言いたいのですか?」
「いえいえ、そんな別に・・・
貴女は真実さえお話しすればよいのですよ・・・
そうすれば、これからの辛く苦しい1時間を短くすることができるんですから・・・
特にマリオ殿にとって結構辛いのでは・・・」
「何ですって!
それはどういう意味なんですか!? いったい彼をどうするつもりなんですか!?」
.jpg) |
「ふふっ・・・
さあ、何でしょうね・・・ まあ、正解を言いますと、彼の手足を丁寧に縛って、こめかみに鉤爪の付いた輪をはめてですね、締め上げるわけですよ・・・
するとですね、彼のこめかみにその鉤爪が喰い込んで、そこから血がドバァ〜と・・・」「いやーー!
やめて! 嘘よ! そんな・・・!」
「さあ、それが嘘かどうか・・・
まあ、分かるでしょう・・・ まもなく・・・
くくっ・・・」 |
「何を笑っているの!
あんたは鬼よ!悪魔よ・・・」「ぐぅわぁーーーー!」
「え! 何! この悲鳴は・・・!!
まさか!」「ええ、そのまさかですよ・・・」
スカルピア男爵はそのサディスト(加虐趣味者)としての本性をむき出しにしつつ、カヴァラドッシに肉体的な、そしてトスカに精神的な拷問をかけ始めたのだった・・・
<次回に続く>
|