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サン・タンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の聖堂
−サン・タンジェロ城の砲声の約5分後−
王国の勝利に浮かれていた空気が一瞬にして凍り付いたのは、スカルピア男爵を筆頭とした秘密警察の特命捜査官たちがいきなり踏み込んできたからだった。
「フン!
何も知らず聖堂の中で大騒ぎとはおめでたい連中だ・・・
よし、早速捜査に入るぞ。 全員聖堂の中をくまなく捜索しろ!」「はっ!」
「(子供や見習い修道士たちに向かって)おまえらはさっさとテ・デウムの準備にかかれっ!」
子供、見習い修道士たちは、とぼとぼと支度へと向かった。 |
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「では、わいらはここで・・・ お後もよろしいようで・・・テケテンテンテン」「待て!
おまえはここの堂守だな。残って捜査に協力しろ!」
「うわぁぁ〜! はははははぃぃぃぃ〜!
そそそそうしままますぅぅぅ〜!(どひゃ〜!何や、どないしたんや〜!
わては何もやってへんで〜!)」
各捜査官が聖堂内に散って捜査を始めた。
同時にスカルピア男爵も辺りを見回した。
「くそぉ・・・
あの大砲は失敗だった。市内の門が閉まったのはいいが見事に気付かれて逃げてしまったわ・・・
今日中に逮捕できないと大変なことになる・・・」
「あのぉ・・・
大将、どないしましたん・・・」「おまえが聞くな!」「ひぃぃぃぃぇぇぇぇ〜!
すすすすんまへん〜!」
「サン・タンジェロ城よりこの教会にある脱獄囚が逃げ込んできた!(と、思うんだが・・・)その捜査だ!
何か手がかりになるような事はないか?」
「どっひゃ〜!
で、その囚人とは誰で・・・」「貴様に質問する権利はない!(ばれたら警察の恥だ・・・)
聞かれたことだけに答えろ!
きさまもあの監獄に入りたいか?」「ずう゛ぇべべべぇぇぇ〜!
すすすすんまへん〜!」
程なくして、堂守がアンジェロッティ家の礼拝堂の扉が開いているのに気がついた。
「どっひゃ〜! 何やこれ、扉があいとる〜! 」
「何だと! ほう・・・ いい手がかりだ!
よし、中にはいるか・・・」
それから程なくして、以下に示す気になる物が発見された。
1.アンジェロッティの隠れていた小部屋の中から発見された空の籠
(堂守の証言から、中には食料と葡萄酒があったが、これは教会の絵描きのために用意した物で、ここにあるのは絶対おかしいとのこと。)
2.礼拝堂の中に落ちていた貴族のものらしき扇
(実はアンジェロッティの妹ジュリアの用意した逃亡用変装セットの一つだが、アンジェロッティが見落としていた。)
3.完成寸前の聖人画
(カヴァラドッシ作「マグダラのマリア」のこと)
「なるほど・・・ これらの物から推測すると・・・」
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「(この扇の紋章・・・
アッタヴァンティ! なるほどな・・・
やはり妹が脱走の手筈を・・・ それからあの籠の食料もアンジェロッティが食べたのだろう。どうも話が出来過ぎている・・・
もう一人、脱走の手助けをした奴がいるな・・・ (絵の方向を向く)ん?
あの絵!よく見ればジュリアの肖像ではないか!
となれば、あの肖像の作者・・・)」 |
「あの〜大将・・・」「(恐ろしい顔で堂守を睨みつけて)おい貴様!
誰だ、あの絵の作者は!」「(どべべぇぇ〜!)
カカカカカヴァカヴァヴァラララドドドッッシシシシシ・・・」
「一言で言え!」
「カカカヴァラドッシ大センセイです!」
「何!
マリオ・カヴァラドッシ!?
あのヴォルテールの手合い、共和主義者か! しかもあの憧れのプリマ・ドンナ、フローリア・トスカの恋人・・・
うぬぬ・・・ おのれ〜許せん・・・」
そこへ、入ってきた一人の女、なんとトスカであった。
「マリオ!マリオ!
もう、どこへ行ったの!
(すぐに帰れるつもりだったのに、『祝勝記念カンタータ』のソロをマネージャーに勝手に決められちゃって、今夜ダメになった事を言いに来たのに・・・)」
「(何と!
トスカではないか! ふふっ・・・
何という幸運! いいことを思いついたぞ!
この扇を使ってアンジェロッティの手がかりとトスカをゲットする一挙両得のすごい作戦をな・・・!)」「今のうちに逃げよ・・・
ほな、さいなら〜」
スカルピア男爵は聖堂内の聖水を手にくべると、何もないような素振りでトスカへ近づいてきた。
折しも教会の鐘が鳴り、それが合図となって信者の人々がテ・デウム(神への賛歌)を歌いに集まりつつあった。
「おお・・・
清らかなるプリマ・ドンナ、フローリア・トスカよ。私は鐘の音とともに貴女にこの聖水を捧げます・・・」
「(スカルピアの方向を向いて)(うげっ!スカルピア!何でこんな所に・・・!)ありがとうございます・・・(手で十字を切って)(いやぁぁ〜!
変態オヤジ〜!
これ以上近寄るなっちゅうねん〜!)」 |
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「このヴィットリオ・スカルピア、貴女の敬虔なる信仰心にはいつも心打たれます。あの『マグダラのマリア』の顔で、いつも教会に来ては美男子とイチャつく淫乱女とはエライ違いです・・・」
「な、何ですって!
今何を・・・!
まさか、私のマリオが・・・ そんな・・・
何か証拠でも・・・!」
「あ〜 いや失礼・・・ でも、現に画家殿はいませんし、絵の下にこんな物が落ちておりましてね・・・
(わざとらしく扇を広げて)これが画家の道具にどうも見えなくてですね・・・
しかもこの扇の紋章が・・・」
「こ、これは!
アッタヴァンティ! そんな・・・
私のマリオが・・・! そんな・・・」「(ふふっ、毒が効いてきたぞ!)」「ああぁ!
きっと私たちの愛の隠れ家で二人して、私をバカにしながらあんな事・・・こんな事して・・・!」「(いいぞ、いいぞ!)」「許せない・・・
許さんへん・・・ 私・・・
わし・・・」「(もっと、もっと回れぇ!)」「(絵に向かって)あのダボ・・・なにしとおんや・・・」「(ん・・・?
何だ?言葉が・・・)」
「あのダボが!
わしが行ってシバキたおして、いてもたるわぁっー!!」
「教会の中ですぞ!(いかん!
毒の効きすぎだ!)」
(注:今でこそ歌姫のトスカは、もともと貧しい生まれの庶民である・・・)
「(はっ!)」
トスカが辺りを見回すと、聖堂内のスカルピア男爵や警官、テ・デウムを歌いに集まりだした庶民や貴族たちが一斉にこっちを見ていた・・・
「(えっ! うそ・・・
やだぁ・・・
私のイメージが・・・ ここは何とか・・・)(わざとらしく泣きながら)ううっ、主は私の哀れな姿をご覧においでです・・・
では私は行くところがございますので・・・(隠れ家へ行ってあのダボをシバキや〜!)」
トスカは内心に異常なまでの嫉妬の炎を燃やしながら教会を後にした。
その直後、スカルピア男爵はスポレッタら3人の警官に、馬車一台でトスカを尾行し、アンジェロッティの手がかりをつかんで、ファルネーゼ宮殿の自分の執務室へ報告するよう指示した。
早速、スポレッタら3人の警官はトスカの尾行を開始した。
そして、教会の鐘の音とオルガンの響きが相俟って、聖堂内が厳かな雰囲気となり、ついに戦勝祝典のテ・デウムの合唱が始まった。
「フン、恥をも知らぬ愚民どもめが・・・
よってたかって下手くそな合唱で恥の上塗りをしておいて、それで敬虔な信者気取りか・・・
まったくもって偽善者もいいところだ・・・
まあ、よかろう。そういう何も知らぬ愚民も必要だ。こいつらの全てはこのスカルピアの掌中にあるのだからな!
まあ、形だけでも加わってやるか・・・」
スカルピア男爵は合唱団に(一応)加わるため、ゆっくりと歩み始めた。トスカへの呪いの言葉を吐きながら・・・
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「行け!
トスカよ!
おまえの心にはこのスカルピアが取り憑いているのだ!(ちょっと効きすぎたかもしれぬが・・・)
おまえはわしの鷹となって獲物を掴み取ってくるのだ!」
「主の名において我らに救いを・・・」「我らが主よ・・・」
「そして、このわしにおまえの肉体と反逆者の首の両方を捧げるのだ!」
「主の名において祝福を・・・」「とこしえに・・・」
「だが・・・
奴の首など二の次だ・・・ わしはおまえの愛の炎に悶えるその姿が見たいのだ!」 |
そして大合唱は最高潮となる。
「テ・デウム・ラウダムス!
(神であるあなたを誉め讃え)
テ・ドミニウム・コンフィテムル!(主であるあなたを信じます)」
「おおっ!
トスカ! 罪な存在よ!
おまえはわしに神すら忘れさせるのだ!」
スカルピア男爵はその心に邪悪な思いをはせつつも、最後に大合唱と一体となった。
「テ・アエテヌム・パトレム・オムニス・テッラ・ヴェネラツル!
(人はみな永遠の父たるあなたを崇めます)」
「テ・アエテヌム・パトレム・オムニス・テッラ・ヴェネラツル!
(トスカ!
おまえはわしのものだ! ぐわぁーはっはっはーっ!)」
スカルピア男爵は心の中で高笑いをしつつ、ポーズだけの祈りを捧げるのであった・・・
<第2幕に続く>
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