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サン・タンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の聖堂
−サン・タンジェロ城の砲声の約半時間前−

<アンジェロッティ「逃走のテーマ」>
(演奏箇所:最初から4小節目〜15小節目まで)
一人の男が足を引き摺りながら顔面蒼白でサン・タンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の裏口から入り込んできた。
「はぁ、はぁ… やっとのことで逃げ出せた…
もうダメだ… しばらくは走れない…」
脱獄政治犯チェーザレ・アンジェロッティは、スカルピア男爵の予想通り、誰も居ないサン・タンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の聖堂に逃れていた。
「聖母像の下に…
あった!
我が家の礼拝堂の鍵だ! 感謝するぞ、我が妹ジュリアよ…」
鍵を取ると、アンジェロッティはすぐに礼拝堂の扉を開け、通常は入れない中の小部屋に身を潜めた。 |
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そこへ、一人の男が聖堂に入ってきた。この教会の堂守(教会の世話人)であった。

<堂守「道化のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号6番3小節目〜12小節目まで)
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「まったく何やねんなぁ、この筆は… いくら洗ってもばっちぃがな。はぁ…カヴァラドッシ大センセイのチョー大作マタグラ…いや、
"マグダラのマリア"
はいつになったら完成するんやろうなぁ…
まぁ、我らがローマ教会の敵ヴォルテール(注:共和主義者)の奴が作るもんやから、パチくさいバッタもん…
あっ、鐘や。アンジェラスのお祈りの時間や。(え〜天の御使いはどうのこうの…)」 |
程なく登場した一人の美男子。画家マリオ・カヴァラドッシであった。

<カヴァラドッシ「共和主義者のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号14番1小節目〜8小節目まで)
「さぁ、いつものように仕事を始めるか!
おっさん、筆と絵の具をくれ。それから、この絵誰か判るか?」
作成中の聖人画(マグダラのマリア)の覆いを取って、カヴァラドッシは堂守に誇らしげに見せた。
「げげぇ!、いつもここへ来てはるあの金髪のベッピンさんでおまへんか!」
「おぉ!判るか、おっさん!
いつもここへ来てるし、あまりに金髪と青い目がセクシーだったんで思わずこっそり描いちまったぜ!」
「(ちょぉ待てや〜! こんなもん飾れっちゅうんか!? アホかこいつはぁ!)」
「あぁ、妙なる調和よ。名も知らぬこの女性は金髪で目が青く、僕の恋人トスカは目も髪も黒い。どっちもセクシーだ…
けど僕の意中はトスカ、君だけだ…」
「(一人でやっとれ、このボケが…!
ほんまにこの手のボケにはツッコミ入れる気もせんわ!)ほなセンセイ、わては行きまっせ!」 |
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堂守が聖堂を去った直後、作成現場の後ろにあるアンジェロッティ家の礼拝堂の扉が突然開いた!
「おお、我が親友カヴァラドッシよ、私だ!」
「誰だおまえ… なに!もしや、アンジェロッティ!」
「おお、判ってくれたか! たった今サン・タンジェロ城から逃げてきたのだ。」
「なんでも言ってくれ、僕が力になる…」(マリオ!)「(げげぇ、よりによってこんなときに…)」「外からか?
誰だ?」「トスカだ。僕の恋人だが今はまずい。隠れていてくれ!
早く済ます!」「何も食べていない、力が出ない。もう歩けない…」(マリオ!)「わかった、今行く!(おいおい、何とかしてくれよ…)」「何か食べ物を…」「この籠を持っていけ。食料だ。」「ありがとう我が親友よ…」「早くしろ!」「おお、我が救世主…」「いいから早くしろってば!」
アンジェロッティはまたもとの小部屋に隠れた。
(マリオ!マリオ!マ〜リオ! )
「(もう何度も叫ぶなよ〜)ここだよ、今開けるよ。」
カヴァラドッシが鍵のかかっている聖堂の扉を開けた。
すると、外からローマのプリマ・ドンナフローリア・トスカが怪訝そうな顔で入ってきた。

<トスカ「祈りのテーマ」>
(演奏箇所:練習番号25番1小節目〜8小節目まで)
「もう!なんで閉めてたのよ!」「堂守のおっさんが閉めとけってうるさいんだよ。」
「ちょっと!
まさか誰かほかに居たの?」「気のせいだよ、気・の・せ・い!」
「ふ〜ん。ねぇ、仕事の後にあなたの別荘へ一緒に行かない?
貴方と私の愛のお城、そこには花が咲き乱れていて、鳥がさえずり、釣り鐘草がリンリンと…」
「あぁ〜!
なんてロマッチックなんだろう、そうさ、僕のシレーナ(誘惑の魔女)よ!(ヤバイ!彼女がこのセリフを言い出したら1時間は続くぞ!何とかして早く終わらせねば!)早く仕事を終わらせたいんだ。ごめんよ、一緒に行くから今は出てくれ。」
「え〜もう? わかったわよ…(絵に目がいく)って、何!この絵は! この金髪で青い目で…
ジュリア・アッタヴァンティ!あの女ね!
まさか、今居たんじゃ…!」
「そ、そんな馬鹿な…
モデルとして描いただけだよ。僕の意中は君だけだ!」
「ふ〜ん。本当かしら。」
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「あぁ、君の黒い髪、黒い目だけが僕をひきつける。それに比べたらもうほかの女なんて…(愛してるよぉぉ〜!
だからとっとと早く出てってくれぇぇ〜!)」
「あぁ!
いいわ、マリオ!もっともっとぉ〜言って言ってぇ〜!」 |

<トスカ&カヴァラドッシ「愛のテーマ」>
(演奏箇所:練習番号37番14小節目〜21小節目まで)
カヴァラドッシは考えられるだけの愛の言葉を並べ立て、何とかトスカをなだめて外へ返した。
「(はぁはぁ… 何とかなった…)」「すまぬ、カヴァラドッシ!」
「さぁ、これで邪魔はなくなった。まったく、彼女は正直過ぎて隠し事が出来ないんだ… そう言えば、どうやって出てきたんだ? こんな脱獄が一人では出来ないと思うが…」
「そう、妹のジュリアがスカルピアから私を守るために仕組んでくれたのだ!」
「何だって!スカルピア?
あの、冷酷非情で好色で強欲の変態オヤジか! それじゃ、彼女は… そうか、だからいつも礼拝に…
わかった、命をかけて君を助ける!
僕の別荘にとりあえず隠れるといい! 万一のときは庭の井戸の中に隠し部屋があるからそこへ…」
(ズドォーン!)砲声一発、サン・タンジェロ城の大砲が唸った!
「いかん!脱獄がバレたぞ!
スカルピアが非常線を張る前に一刻も早く!」
「いろいろ世話になった。 では、さらばだ!」
「心配だ!僕も一緒に行く!
ともに戦おう!」 |
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二人が出て行ったと同時に、あの堂守が聖堂の中に入ってきた。
「イェ〜イ!!
王国の勝利や!ボナパルテ(注:ナポレオンのこと)がボロ負けしよったー! センセイ、どや、正義は勝つもんや…あれ? おらへん… 」
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「わーい、おっちゃん!はよぅーお祝いや、祭りや!
ここで街のみんなとテ・デウム(注:神への賛歌である壮大な合唱曲)歌うんやろ?」「そうやそうや、おまけに戦勝記念パレードにコンサートや!
ファルネーゼ宮殿でフローリア・トスカが王妃様を前に合唱をバックに歌うんや!
どや、スゴイやろ〜!」
「わぁ〜!
ごっついエエやん! わ〜い!わ〜い!」 |
見習い修道士や子供たちがたくさん堂守に寄ってきた。もう、みんな大騒ぎ!
と、その時突然聖堂への正面扉が開いた!
「……!」
「……!」
皆がその方向を見た瞬間、先の騒々しさが嘘のように静まり返り、誰もが恐怖におのろき、顔を引きつらせた…
<次回に続く>
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