オペラの歴史

  オペラはあたかも人間の誕生日のように明瞭にその時と所を定め得る。生まれた場所はイタリアのフィレンツェのバルディ伯の宮廷であり、時は1597年すなわちルネサンス末期であった。当時の貴族や風流人たちが古代ギリシアの劇を上演してみようということになり、詩人リヌッチーニ作曲家ヤーコボ・ペーリおよびカッチーニなどが協同して、ギリシア劇に取材した《ダフネ》という音楽劇を作り上げた。これがオペラの誕生で、この人々はギリシア劇が独唱を本質とすると誤解したため、《ダフネ》も独唱を主とし、楽器の伴奏をつけた。この楽譜は一部しか残っておらず現在最古のオペラは1600年に上演された《エウリディーチェ》で、だいたい全作と同じ人々が制作にあたった。この両作品は成功し、同様な作品が続々と生まれ、フィレンツェから全イタリアへ普及し、今日のオペラの源をつくった。
(音楽之友社 「新音楽事典」楽語編より)

 オペラは搖籃期にはdramma in musicaあるいはdramma per musicaと呼ばれていました。それがやがてopera in musicaと呼ばれるようになり、さらに略されてoperaとなったのです。ラテン語のoperaとは作品、芸術、作業、事業を意味するopus(作品番号をop.と書いている、あれです)の複数形です。つまり、オペラとは作品群の意味を持つ言葉なのです。

 さて、ルネサンスは古典すなわちギリシア・ローマ文化の復興を目指す芸術運動です。その中で生まれたオペラは当然のことながら古典世界を題材として扱うのが本道というわけです。上記のダフネはアポロの求愛から逃れるため父親の川の神に頼み月桂樹に姿を変えてもらった娘ですし、エウリディーチェ(エウリディケ)はオルフェウスが地獄から救い出そうとした妻の名で、いずれもギリシア神話から題材が取られています。これらの話がいったい何百、何千年前を想定したものかは定かではありませんが、250年後のヴェルディに至ってオペラは初めて現代の事柄を扱うことになったのでした。有名な《椿姫》です。

 さらに時代は下り、オペラに新しい運動が起こります。「ヴェリズモ」がそれです。文学から起こったこの運動、元をたどればフランスの小説家・ゾラの自然主義にたどり着きます。「写実主義」「現実の肯定」「人生のための芸術」をモットーとするこれらの運動から生まれた初のヴェリズモ・オペラマスカー二《カヴァレリア・ルスティカーナ》(1890年)でした。これに刺激を受け、プッチーニが書いたヴェリズモ・オペラが《マノン・レスコー》(1893年)で、《トスカ》(1900年)は、彼のヴェリズモ・オペラ第3作に当たります

 プッチーニは真のヴェリズモ・オペラを書いていない、という議論もありますが、ヴェリズモ全盛期にそういった風潮の中でかかれたオペラであることは事実です。

(2ndヴァイオリン 川井裕史)