マーラー交響曲第5番 嬰ハ短調
−第5楽章−
「ロンド
(註5)・フィナーレ 楽しく、新鮮さに満ちて」

 遠くに向かって呼びかけるようなホルンのひとふきに答え、たてつづけに5つの音型が示される。それらはいずれもこの楽章を組み立てる上で重要な役目を負っているものばかりだが、みな屈託のない、健やかな節回しも持っているために、まるで森の動物たちが巣穴からひょっこりと顔をのぞかせたかのようなほのぼのとした空気までも生みだしてしまう。
 そのつぎにホルンの合奏が提示してくる鷹揚な旋律をさまざまに変貌させ、音楽から多彩な情緒を引き出した上で、最後にもう一度原形どおりに再現して終わる、というのが、いちおうはこの楽章の骨子なのだが、途中の要所要所にフーガ(註6)を配置してある、ということにこそ、この楽章の無視できない特異な趣向であろう。披露されるフーガは全部で6つ(11個とも数え得る)。どれも弦楽合奏が中心となった、バロック風の剛毅さに満ちたものばかりだ。その流れの中には、第4楽章できかれたメロディも加わっている。この楽章に似合いの速く、活発なテンポに着替えたそれは、発する雰囲気も見違えるほど健康的になっている。
 思いもかけぬ暗転をとげた1本のトランペットに始まった、この長大な交響曲の遥かな旅の終わりを、金管楽器が総出で出迎え、第2楽章でしぼませたきりだったあの祝福のコラールを改めて捧げる。するとテンポは小躍りするような速さになり、短くも潔い最後の音めざして、全オーケストラは駆け出してゆくのだ。


註5:ロンド
 主要テーマを、それとは異なる性格を帯びた「エピソード」と呼ばれる部と交互に登場させて曲を形造ってゆく作曲技法。主要テーマをA、エピソードをEとして図示するならば“A−E1−A−E2−A−E3……”となろう。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンら古典派の作曲家たちの交響曲、協奏曲の終楽章にひんぱんに用いられた。

註6:フーガ
 最初に示したテーマを、別の特定の調(キィ)に移しかえた上で、先発したパートから少し遅らせて登場させ、それらの絡み合いの美によって曲を編み上げてゆく作曲技法。イタリア語の“Fuga”の本来の意味は「逃亡」「脱走」であり、実際テーマが一定間隔を保って流れてゆくさまがいかにも「逃走」「追跡」を連想させるためもあってか、かつては「遁走(とんそう=にげる)曲」とも日本語訳されていた。この技法で作曲された曲は14世紀ごろから見られ、J.S.バッハ(1685−1750)、G.F.ヘンデル(1685−1759)によって理論的、芸術的完成にいたった。