マーラー交響曲第5番 嬰ハ短調
−第2楽章−
「嵐のように 非常に激しく動揺して」

 とどろく雷鳴、一瞬の稲光! といった風な劇的な雰囲気のなか、この楽章ははじまる。規則正しく刻まれる葬列の歩調を看板とする第1楽章とは似ても似つかぬ、激しい、混乱した印象の音楽だが、実はこれら2つの楽章は共通の旋律、あるいはそれらを原型とした新しい別の旋律から組み立てられた双生児なのだ。両楽章の開始の部分の容貌の隔たりを思うと意外な気もするが、そう感じた聞き手も、この楽章の冒頭に配された嵐の音楽が一段落した頃にきかれる、木管楽器のか弱い泣き声や、つぎにくるチェロの悲歌を聴けば……両者の続柄を悟るだろう。
 浮いては沈みを繰り返す、幾多のはぎれのような音たち、果てしもない稲光、稲光、雷鳴、出没しては消えてゆく苦渋の歌……。だが永久に続くかと思われたこの混沌のなかからも、誇らかな金管楽器の和音がすっくと立ち上がる、雄雄しくも輝かしい瞬間がやがて訪れる。この晴れやかな凱歌は、のちには第5楽章の最後に再び現れ、全曲の幕引きという大役を担うことになるのだが、そんな勇敢な大巨人でさえ、この場にあっては消極的にすごすごと身を退いてしまい、音楽をこの嵐の中から救い出そうとはしない。かくして聴き手は再びもとの暴風雨のなかに放り込まれる。
 短い1、2個の音を交代で鳴らしあう複数の楽器たち。ちょうどランプが点滅しているかのように……。この楽章はこのような風景のうちに閉じられる。マーラーの後輩とも呼び得る作風、個性を持った作曲家アントン・ウェーベルン(1883−1945)は、こういった音楽の創り方を「音色旋律」と呼んで自作中に好んでとり入れた、とのことだ。