スペインの民謡・舞曲

 スペインには実に様々な民謡、舞曲が存在します。日本ではスペイン音楽というとすべてフラメンコと思っている方も多いでしょうが、もちろんそんなことはありません。

 「でも、スペイン民謡なんて知らないぞ」...そう思った方、まずは幼稚園で習った「ちょうちょう」を歌ってみて下さい。

 ....おやおや、ミの音で終わっているじゃないですか!そう、この曲は実はスペイン民謡だったのです(短調の響きがないところや、ファからミに下行して解決しないところから、地中海世界の典型的なミの旋法ではないのですが)。

 さて、フラメンコを除くスペイン舞曲で代表格といえばセギディーリャス、ホタ、ボレロ、ファンダンゴなどがあげられます。では、このあたりからはなしを始めましょう。

●セギディーリャス

 16世紀からすでに盛んに作られ、国民的なポピュラリティーを得ている曲です。

 ある意味、日本人には馴染みやすい曲かも知れません。スペイン版七五調です。

 基本形は、四行詩で、音節がそれぞれ7、5、7、5となるのです。それは丁度こんな感じです。

1 この世の名残
2 夜も名残
3 死ににゆく身を
4 例うれば

ちょっと短いですね。そこで、この後に、5、7、5の三行を加えた形も用いられます。こんな感じです。

1 この世の名残
2 夜も名残
3 死ににゆく身を
4 例うれば
5 (例うれば)
6 あだしが原の
7 道の露

 4行目と5行目は同じ詩である必要があるわけではありません。そのかわり、セギディーリャス詩には、もう一つ規則があります。2行目と4行目、5行目と7行目がそれぞれ脚韻を踏む必要があるのです。こんな感じです(デタラメな詩でスイマセン!)。

1 色は匂へど
2 散りぬる
3 我が世は誰ぞ
4 常なる
5 常なら
6 有為の奥山
7 今日越え

 音楽は多くは3拍子系の朗らかなものです。ギターとカスタネットで伴奏されます。基本的なリズムは次の譜例の通りです。

 セビーリャで盛んに踊られるセビリャーナスは、このセギディーリャスの変種に他なりません。

 セギディーリャスは、「カルメン」の第1幕や「三角帽子」の第2幕で用いられています。

●ホタ

 12世紀頃、バレンシアからアラゴンへ追放されたモーロ人(スペインに入ってきたイスラム教徒。英語ならムーア人)の詩人、アベン・ホットが涙とともに歌い広めた歌がホタの始まり、との伝説があります。こんなのウソッパチ。でも、1700年頃の曲集にはすでに見られますから、相当古い曲であることは間違いありません。

 ホタはほぼ100パーセント長調で書かれていて、全体は7フレーズからなります。歌詞の各フレーズは8音節からなります。そして、7つのフレーズに和音がつく場合、フレーズごとに主和音(ドミソ)と属和音(ソシレ)の繰り返しになります。

 さらに、7つのフレーズというのは、実は8音節からなる4行詩を一定のパターンで繰り返したものなのです。一般的にはその順序は<2123441>です。え、わかりにくい?

 仮に次の詩がホタで歌われるとしましょう。字余りは気にせずに(倍ほど多いですよ、念のため)。

1 大阪本町糸屋の娘
2 あねは十八いもとは十五
3 諸国大名は弓矢で殺す
4 糸屋の娘は目で殺す

こうなるわけです、

2 あねは十八いもとは十五
1 大阪本町糸屋の娘
2 あねは十八いもとは十五
3 諸国大名は弓矢で殺す
4 糸屋の娘は目で殺す
4 糸屋の娘は目で殺す
1 大阪本町糸屋の娘

 ちなみに、元となる4行詩の2行目と4行目が脚韻を踏むことはセギディーリャスと同じです。

 3拍子系の速いリズムで、ギター、バンドゥリア、タンバリン、カスタネットなどで伴奏されます。アラゴンのホタが有名ですが、(三角帽子の)粉屋ルーカスの女房、フラスキータの出身地、ナバーラのホタも有名です。三角帽子の大団円はホタです。7フレーズで書かれていることをご確認下さい。

●ボレロ

 1780年頃、有名な舞踏家セレソが創作したと言われる楽曲です。3/4拍子のゆったりとした流れが特徴です。カスタネットで伴奏されます。リズム形としては譜例1および2が一般的です。

 

ベートーヴェン、ショパン、ウェーバーらが取り上げていますが、何といっても有名なのはラヴェルのボレロでしょう。

●ファンダンゴ

 17世紀頃から記録に現れ、18世紀以降は全スペインで盛んに演奏されるようになった舞曲です。

 8音節のフレーズ6つ、というのが基本的なスタイルです。が、これまたホタと同じく4行詩が基本になっているのです(脚韻の踏み方はホタの詩と同じです)。6−4=2ということで、例によって2フレーズ分は4行詩のある行を繰り返すのですが、その順序は、古典的なものでは<112344>、最近の形では、<212344>あるいは、<212341>などです。

 音楽的にもファンダンゴには大きな特徴があります。3拍子で、一定のコード進行に従って書かれているのです。例えば、シャープ・フラットのない調では、それはこのようになります。

第1フレーズ E → C
第2フレーズ C → F
第3フレーズ F → C
第4フレーズ C → G
第5フレーズ G → C
第6フレーズ F → E

 メロディーはミの音で終わるのですが、長調のコードのみの進行であるところ等から、「ちょうちょう」のところで述べた、地中海世界の典型的なミの旋法ではない、ミの旋法の亜種であることがわかりますね。

 ファンダンゴ・デ・ウエルバ、ファンダンゴ・デ・グローリア、など、地名や人名を冠した沢山のヴァリアントがあるとともに、マラガのマラゲーニャ、グラナダのグラナイーナ等ファンダンゴの名で呼ばれない多くの変種があります。

 ファンダンゴはグルックの歌劇「ドン・ファン」、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」、リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」、グラナドスの「ゴイェスカス」などで用いられています。

 

 さて、スペイン舞曲の代表選手を説明したわけですが、「三角帽子」第2組曲の3曲の内、2曲の曲種(1曲目:セギディーリャス、3曲目:ホタ)の説明がすんでしまいました。そこで、ここで取り上げるのはやや場違いなのですが、ファルッカの説明をしましょう。何故場違いか、そう、ファルッカはフラメンコの曲種なのです。

●ファルッカ

 20世紀初頭に大いに流行った曲種です。当初は歌と踊りを伴ったのですが、後にはもっぱらギター曲として演奏されるようになりました。この曲の起源はスペインの北西部、ガリシアかアストゥリアスあたりの民謡であると考えられています。フラメンコ化したファルッカは闘牛士を模したと言われる粋な男ぶりの振付で踊られます。

 音楽としてのファルッカの特徴は、2拍子系であることと、短調で書かれることです。リズムは次の譜例1および2が一般的です。

 三角帽子のファルッカは、ディアギレフから主役のマッシンのために作ってくれと乞われ、24時間で作り上げたものだそうです。ミの旋法のにおいがするのは、ファリャがカディスの出身だからでしょうか。

 

 このほかにも、カタルーニャのサルダーニャ、バスクのソルツィーコなど、まだまだ沢山の舞曲があります。演奏される楽器もギターやカスタネットなどばかりではなく、北部ではバグパイプの一種、ガイタなども用いられます。