ブラームス交響曲第3番 ヘ長調
−第2楽章の解説−


関西シティフィルハーモニー交響楽団
第31回定期演奏会の演奏より
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第4楽章の形式はソナタ形式である。

荒涼とした大地を駆ける寒風のように、最後の楽章の冒頭を、灰色の第1主題(譜例21)が吹きぬけてゆく。

そしてこれがピタリと止むと、トロンボーンの呼び出しに応えて、教理を説く高僧を想わせる厳粛な和音(譜例22)が降りてくる。

これこそは第2楽章の第2主題、あの一度吹かれたきりだったテーマである。当然繰り返されるはずだった場所では二度と奏でられず、聴き手が予想だにしなかった最終楽章で、似ても似つかぬ謹厳さと共に、忽然と出現する、この「高僧」――。彼が曲中で占める地位は、独特だが重要なものだ。

一方、枠にはまらぬ雰囲気を持つ、三連音符をたおやかに連ねた第2主題(譜例23)は、曲を前に進めることだけが自分の役目、と言わんばかりにあっさりと流れていってしまう

この楽章の重要な三主題がこのようにして出揃うと、突如として全合奏がとどろき、情熱の限りをつくして奔走しているような旋律(譜例24)が噴き出、提示部に幕がひかれる。


木管楽器が第1主題を吹いてはじまる展開部。しばらくはもっぱら第1主題を素材として進み、直線的で生まじめな風合いの音楽が繰りひろげられてゆくが、トランペットが突然ときの声を挙げるや、その空気も一挙に塗りかえられてしまう。ベートーヴェンの「第五」を想わせるリズムが頭上をとびかう中、音楽はみるみる騒然としてゆき、興奮が頂点に達したころ、「高僧の主題」がティンパニをしたがえ、圧倒的な勢威を振るって全天を覆いつくすのだ。淋しげにひっそりとたたずんでいた、あの悩める子羊の、おお何という変わり果てた姿――。

このカタストローフ(大崩壊)をきっかけとして、音楽は鎮静化の方向に進みはじめる。重要な諸主題を改めて扱う再現部につづく終結部では、第1主題を細かく断片化(譜例25)したり、

第2主題風のリズムに模様がえ(譜例26)したりする手続きのうちに、

分厚く塗りこめられていた響きにも、徐々に透明な清々しさが戻ってゆく。着々と平穏の境へと進んでゆく音楽の背後に、控え目に「F・As・F」が寄り添っている(譜例27)ことも見逃せない。

かつては尖塔を想わせたこの上昇音形も、長い音符でやわらかく吹かれている今は、逆に天から地上に降りそそぐ慈愛の光といった趣。
そして聴き手は懐かしいひとふしを聴く――。第1楽章の最初で耳にした、まるで巨人のようだったあの第1主題が、繊細な光に包まれて還ってきたのだ(譜例28)

ここにこの交響曲の円環は閉じられた
さあ静かに見送ろうではないか、静寂の国へ帰ってゆく音楽を。

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