歌劇「蝶々夫人」

−曲の概説−



下のリンクをクリックすると、別ウィンドウにて蝶々夫人の音楽を聴くことが出来ます。
(第1幕 蝶々さん登場時に流れる音楽−蝶々さん&女友達の歌)

音楽を聴く!

なお、ウィンドウを閉じても音が鳴りやまないときは、音源初期化または音源の電源を切ってください。



  <作曲者>   
ジャコモ・プッチーニ
(伊:1858-1924)

 「蝶々夫人」は、イタリアの古都ルッカ(トスカーナ州都フィレンツェの西にある都市)出身の作曲家ジャコモ・プッチーニにより作曲された代表的なイタリア・オペラ(歌劇)のひとつです。
その題名は、彼の作曲した他の歌劇「マノン・レスコー」
(1893年初演)「トスカ」(1900年初演)「トゥーランドット」(1926年初演)と同様に、このオペラのヒロインである「蝶々夫人(原題:Madama Butterfly)の名前がそのまま付けられております。
(このオペラが日本で紹介された当時(第二次大戦前)、邦題で「お蝶夫人」と呼ばれることもありました。
・・・が、往年のテニスもの少女マンガに出ていた有名キャラとは無関係です(笑)


<作曲の動機>
前作「トスカ」を書き終えたプッチーニは、早速次の歌劇の題材を探しておりましたが、「トスカ」のイギリス公演の際に見たベラスコ戯曲「蝶々夫人」を見て、台詞の英語がよく分からないにも関わらず(注:プッチーニは生粋のイタリア人)、その内容に感激し、歌劇化を思い立ったと言われております。
その内容に感激した理由は、以下の通りだと考えられています。
@この話に出てくる「蝶々さん(蝶々夫人)」がプッチーニ好みの「薄幸で一途に愛を信じる美少女」であった。
Aそのヒロインが「自らの名誉を守るために静かに死を受け入れる」という気高い精神の持ち主であった。
Bプッチーニが求めていた前作までと「何か違うもの」、つまり「日本が舞台」という「異国情緒」に満ちあふれていた
これには当時、浮世絵や日本の伝統工芸、建築物などがヨーロッパに紹介されたために起こった「日本ブーム」(印象派芸術(絵画、音楽)への影響は有名)の存在が影響していたのでしょう。

<物語の概要>
軽薄なアメリカ海軍中尉(B・F・ピンカートン)異国の地(日本の長崎)で戯れにやった結婚をそうとは知らず、夫が去ってからもただひたすらに信じた元士族の娘で15歳の少女蝶々さん(蝶々夫人)が、3年後に裏切られたと分かり、自分と夫の間に生まれた子供の未来を夫(とアメリカ人の本当の妻)に託し、自らの誇りを守るために自殺するという、(愛の謳歌→破局→死へと至る)「悲劇のヒロイン」による典型的な悲劇です。

<音楽の概要>
作品の全体に渡って「出突っ張り」となる「悲劇のヒロイン」を際立たせるべく、主要なアリア(メロディックな歌)はもちろんのこと、BGM的な伴奏に至るまで、美しい旋律に満ちあふれています
特に蝶々夫人のアリア「ある晴れた日に」は、歌劇をあまり知らない一般の人にも有名です。
そのほかにも蝶々夫人とその召使いスズキの歌う「花の二重唱」(ピンカートンを迎えるために花を家中に撒きましょうと言う歌)、ピンカートンのアリエッタ(短いアリア)「さらば愛の住処よ」(ピンカートンが蝶々夫人を裏切ったという罪の意識から、蝶々夫人の家の前で逃げるときに歌う別れの歌)も有名です。

また、日本を舞台とした歌劇らしく、「越後獅子」「さくらさくら」「君が代」「宮さん宮さん」「かっぽれ(豊年節)」など日本民謡の旋律が効果的に使われていることから、日本人にも親しみやすい歌劇となっています。(現にプッチーニ作品の中で日本初演が最も早かった歌劇です。)
これらの旋律は、舞台となる土地の様子や音楽に対して極度にこだわるプッチーニ自身が、作曲の際に取材した在イタリア日本大使夫人から教えてもらったものだとされています。

<歌劇「蝶々夫人」の基本データ>

以下に歌劇「蝶々夫人」に関する基本的なデータを載せます。
以後このオペラの物語や背景など詳細について紹介していきたいと思います。

形   式 2幕3場からなる歌劇
(第1幕は1場のみ、第2幕は2場に分割されるが、完全に3幕ものとして紹介されることもある。)
作曲期間 1900〜1903年
(原作者からの歌劇化許可の遅れ、台本の度重なる訂正、作曲者自身の自動車事故による負傷(大腿骨骨折)などで完成が遅れたとされる。)
初   演 1904年2月17日、ミラノ・スカラ座(イタリア)にて
演奏時間 合計で約2時間(休憩時間含めず)
(第1幕:約45分,第2幕 第1場:約45分,同 第2場:約30分)
原   作 劇作家ダヴィッド・ベラスコ(1859-1931)作の同名の戯曲
(ただし、戯曲には歌劇の第2幕にあたる内容しかない。)
さらにその戯曲の原作は小説家ジョン・ルーサー・ロング(1861-1927)作の同名の小説に拠っている。
台本の作者 ルイージ・イッリカ(伊:1857〜1919)
ジュゼッペ・ジャコーザ(伊:1847〜1906)
ただし全体的な構成や内容には作曲者もかなり関与している。
舞台設定 19世紀末長崎
(ロングの小説から日清戦争のあった1894-5年頃と推測される。)

また、舞台が長崎の海を見渡す丘の上であることや、(ロングの小説の原案となった)長崎へ行ったロングの姉の話の内容から、詳細な場所は長崎湾を見下ろす高台にあった外国人居留地(現グラバー園付近)と推測される。
登場人物 主要登場人物
蝶々夫人(ソプラノ)
没落士族(長崎県大村市出身?)の娘
スズキ(メゾ・ソプラノ):蝶々夫人の召使い
B.F.ピンカートン(テノール)
:アメリカ海軍中尉
シャープレス(バリトン):在長崎アメリカ領事
その他の登場人物
ゴロー(テノール)
:結婚仲介人(女衒)
ボンゾー(バス):蝶々夫人の叔父の僧侶
ヤマドリ公(バス):蝶々夫人への求婚相手(お金持ちの貴族)
ケート・ピンカートン(メゾ・ソプラノ):本当のピンカートン夫人
ヤクシデ(バス):蝶々夫人の飲んだくれの叔父
神官(バス):結婚式を執り行う神道の神主
役人(バス):蝶々夫人とピンカートンの入籍を執り行う戸籍係
蝶々夫人の母叔母いとこ親戚たち友人たち
長崎港の水兵たち
(舞台裏の歌のみ)
 
(台詞のない黙役)
ドローレ(イタリア語で「苦悩」の意)蝶々夫人の息子(3歳ぐらい)
日出光:蝶々夫人の家の料理人、芳香:蝶々夫人の召使い
オーケストラの
楽器編成
木管楽器群:ピッコロ、フルート、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バスクラリネット、ファゴット
金管楽器群:トランペット、ホルン、トロンボーン、バストロンボーン
弦楽器群:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス
打楽器群:ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、トライアングル、鉄琴、銅鑼、鉦(総譜では「日本式の鐘」との指示)
その他:ハープ
(舞台裏の別編成で以下の楽器等を使用)
ヴィオラ・ダ・モーレ(古式の弦楽器、通常はヴァイオリンで代用)、銅鑼、梵鐘類(総譜では「日本式の銅鑼」、「重い銅鑼」との指示)、鐘、鳥笛、大砲


(参考文献)
作曲家別名曲解説ライブラリー,ヴェルディ/プッチーニ(音楽之友社刊)
歌劇「蝶々夫人」総譜(リコルディ版)
(文)岩田 倫和(チェロ)