オペラ「蝶々夫人」

−あらすじ(第2幕第2場)−

一晩中ピンカートンを待ち続けた蝶々さん・・・
スズキ息子ドローレは疲れはてて夢の中・・・

疲れでまどろんでしまった蝶々さんの脳裏には、裕福だった家の没落、食い扶持のため誇りを捨てて芸者となった辛い日々、ピンカートンと結婚して愛に包まれた数ヶ月、帰国した夫を信じて待ち続けた3年の月日・・・今までの記憶が走馬燈のように巡る・・・

それは、死に臨んだ人間が間近に見るという「人生の記憶」なのか・・・
「儚き蝶」よ哀れなり、「永遠の一瞬」は刻一刻と迫る。

「誉レニ生キル能ワズバ、誉レニ死セヨ」
(名誉をもって生きることが出来なければ、名誉を守るために死ね)
短刀の銘は「名誉」の名の下、哀れな蝶を死の闇へと誘う・・・


<第2幕第2場>
(第2幕第1場から一夜経った蝶々さんの家)


弦楽器による強烈な出だしで始まる間奏曲は、蝶々さんのこれまでの人生を物語るかのように、第1幕に出てきた多くの主題(テーマ)をもとに構成されています。
それをざっと順に紹介すると以下のようになります。


「没落のテーマ」の変形
(第1幕で蝶々さんが没落した身の上を語るときに出た「越後獅子」旋律の変形)

「尊敬のテーマ」の変形
(第1幕で蝶々さんがピンカートンの手にキスをするときに出たテーマの変形)

「愛の二重唱」の変形
(第1幕の「愛の二重唱」の一部を変形させた旋律で、何度も繰り返される)

「愛のテーマ」の変形
(第1幕で蝶々さんの登場時に流れた旋律(歌)の変形)

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数分間に及ぶ長い間奏曲が終わると、舞台には夜明けが訪れます・・・
遠い長崎港の方からは、船の碇を降ろす鎖の音水兵達のかけ声も聞こえてきます。
朝の訪れを告げるホルンの音、続いて鳥の鳴き声(鳥笛の音)、音楽は徐々に勢いを増し、ついに朝日が昇った頃に頂点を迎え、蝶々さんの家も朝日の光を受けて明るくなります。

その光でスズキ目を覚ましまします。
「まあ、こんなに日が・・・蝶々さん・・・奥様・・・」と、スズキはまどろみの中にあった蝶々さんを起こします。
蝶々さんはぼんやりしながらも息子を気遣い、「まあ、かわいそうな坊や・・・きっと帰ってくるのよ・・・あの人は」と言いながら、スズキに促されるまま、子守歌を歌いながら息子と共に奥の寝室へ入っていきます。

「なんと哀れな奥様・・・」とスズキが嘆いていると、玄関の戸からノックの音が!
戸を開くと、何とそこにはピンカートンシャープレスの姿が!
「あぁぁ!」と驚きの声を上げるスズキでしたが、
「シィー!静かに〜!」「頼む! まだ蝶々さんを出さないでくれ!」と、いかにも訳ありげな様子です。
「なぜ早く来てくれなかったのです!」「へ?何で来たのを知ってるの?」「奥様は3年間いつも欠かさず港の方を・・・来る船をずっと見てたんです!」「そ、そんなぁ・・・!」「だから言っただろう! 彼女は本気だと!」「シャープレスゥ〜何とかしてくれよぉ〜」と言い合っている間に、スズキは戸の向こうに一人の女性を見ます
「あの女の方は・・・?」
「あ、あの・・・ええとね・・・」「誰なんです!」「私と一緒に来た・・・」(自分の撒いた種だろう!何してるんだバカが・・・ええい、ままよ!)彼の妻だ!ええぇぇーーー! ああぁ・・・! 奥様の太陽は沈んでしまわれた・・・」と、衝撃の事実に悲嘆の叫びを上げるスズキ!

シャープレスピンカートンの母国での結婚彼の本当の妻ケートのことをスズキに話します
そして、蝶々さんにこの事実を伝えて、ピンカートン夫妻が蝶々さんの息子を引き取り、母国アメリカに連れて行きたいので、その橋渡し役をスズキに頼みたいとの旨を伝えます。
「何と・・・辛いことを!と、運命の残酷さに嘆き悲しむ一方で、何とかして事実を受け入れ、シャープレスの意向に従おうとするスズキ
3年の月日が過ぎても僕の蝶々は愛の日々を忘れてなかった・・・ 僕の家はそのままだ・・・ あの時と同じ・・・!
あぁぁーーーー! 僕はなんてことをしてしまったんだぁぁぁーーー!と、自分の軽薄さ故に生み出してしまった悲劇を悔やむピンカートン
「さぁ・・・やってくれ!スズキよ!」悲痛な気持ちでスズキに全てを託すシャープレス
三人三様の悲嘆が繰り広げられます。
(この部分は、オペラ中で一二を争うほど実に美しい三重唱で語られます。)

シャープレスはスズキに悲痛な気持ちをうち明けると、その悲痛さをぶつけるようにピンカートンを責めます!
だからあの時言っただろう! 彼女の誠意を踏みにじるなと! 彼女は周囲の嘲りや責めにも堪え、
お前を待っていたのだ!「そ、そんなこと言われたって・・・どうしたらいいんだよ・・・ あぁ・・・ ダメだ・・・ 僕はこの場にはいられない・・・ 向こうで待ってるってのはダメかな・・・ シャープレス・・・ キミが何としてくれよ・・・」(何て情けないヤツだ・・・まあ居たところでどうにかなるものではあるまい・・・)ああ、行けばいいだろう! 彼女はこの事実を一人で受け止めるだろう・・・ 断腸の思いで!

「さらばだ・・・僕の愛の住処よ・・・」
ピンカートンは家の前を去る直前に、蝶々さんと「愛の住処」だった家への別れの歌を歌います。
アリエッタ「さらば愛の住処よ」


(当HPと関係ありませんが、このページで、実際のアリエッタ「さらば愛の住処よ」(このページではアリア「さらば、愛の家よ」)を聴くことが出来ます(無料配布のReal Playerが必要です))


歌い終わった直後、(観客から拍手を受ける余裕もなく)逃げるようにして家を後にするピンカートン
それはアメリカ海軍士官の誇り高き姿も、ヤンキー・バガボンドの勇壮さもない、非常に情けない姿です・・・

さて、蝶々さんに真実をうち明けるときの相談をしていたスズキケートでしたが、そこへ目を覚まし、どことなく只ならぬ雰囲気を感じ取っていた蝶々さんが部屋の方にやってきたのです!
スズキ! スズキ! どこなの? あの人が帰ってきてるんでしょ! 隠れてないで!「あ、奥様・・・ 私ならここに・・・ 来てはダメです・・・ ダメ・・・ あぁ・・・!
「まあ、領事様! どこ! どこなの! いない・・・ あの女の人は・・・?」
「あぁぁぁ・・・」「待って・・・ 言わなくていいわ・・・ ねぇ、スズキ、一言でいいから答えてちょうだい・・・ あの人は生きているの?「はい・・・」「でももう私とは会わない・・・」「・・・・・・・・・」「黙ってないで! 答えてよ!・・・・・・」
と、恐ろしくも悲しい詰問の末に、蝶々さんは全てを悟ります

そして、蝶々さんケートに、「貴女は世界で一番幸せな人・・・ あの人が望むなら望みのまま、息子を託しましょう・・・ 30分後に丘を登ってきてください・・・と、意味ありげに語りかけ、ケートシャープレスと共に家を出ていきます。

その直後、蝶々さんは堰を切ったように泣き崩れスズキはそんな蝶々さんを見て哀れみのあまり「奥様のおそばに・・・」と言いますが、蝶々さんは何とか立ち直って、
「いえ! 庭で息子と遊んでおやり! 命令よ!スズキに強い口調で命令します
しぶしぶ蝶々さんの息子のいる庭へ行くスズキ

「・・・(これで心おきなく・・・)」
蝶々さんは思い詰めた表情で部屋に戻り、真白な死装束に着替え懐の短刀を手にとって銘文を読み上げます・・・

(ここではっきりとした形で、極めて強く死のテーマが演奏されます。)

「誉レニ生キル能ワズバ、誉レニ死セヨ・・・」
(名誉をもって生きることが出来なければ、名誉を守るために死ね)

そして、短刀の刃先を喉に当てようとした瞬間!
障子の向こうのスズキに追いやられて、息子が蝶々さんの下に来たのです!

「あぁ、おまえ!
可愛い坊や! 天からの授かりもの!と叫んで、息子と愛おしむように最後の別れの歌を歌い上げます
「おまえは母さんとお別れしないといけないの・・・ でも、あの国に行っても忘れないで・・・
しっかり覚えるのよ・・・ 母さんの顔を!
アリア「さようなら坊や」


(当HPと関係ありませんが、このページで、実際のアリア「さようなら坊や」からオペラの終わりまでを聴くことが出来ます(無料配布のReal Playerが必要です))


歌い上げた後、息子「さあ、遊んで・・・遊んでおいで・・・!」と、庭へ再び追いやった蝶々さん・・・
ついに短刀が喉に突き当てられ、その刃がきらめいた瞬間!
とどめを刺す
重い銅鑼(どら)の音と共に蝶々さん短刀で喉を突くのです!

断末魔の叫びを上げることもなく、吹き出る血潮と共に崩れ落ちる蝶々さん
「バータフラーーイ
(蝶々さん)!」と、家の向こうから三度叫ぶピンカートンの声も空しく、「(坊やを頼みます)・・・」と遺したかったのか、蝶々さんは倒れながらも愛する息子を指さして息絶えるのです・・・

最後に激しく演奏される日本のメロディー(推量節)が、この日本で起こった悲劇の終わりを彩ります。


最後の推量節

(上のリンクをクリックすると、音楽解説音楽の聴けるページが出ます)


−完−