(C) 関西シティフィルハーモニー交響楽団
(アマチュアオーケストラ,大阪市)

歌劇「ナブッコ」

−その3:第3幕の合唱−
「行けわが思いよ、金色の翼に乗って」

 



(このページを直接ご覧いただいた方へ)
このオペラ「ナブッコ」のストーリーは、こちらの解説ページにあります。
また、この歌の背景となっている「バビロン捕囚」については、こちらの背景解説ページにあります。
さらに、作曲者のジュゼッペ・ヴェルディについては、こちらの作曲者紹介ページで紹介しています。

 

<合唱の概要>

−祖国を失った民が切々と歌う、「望郷の念」と「神への祈り」−

第3幕ユーフラテス川(現在のイラクの中心を流れる大きな川)の岸辺の場面で、鎖につながれたイスラエルの民によって歌われるこの歌は、イタリア国民に現在に至るまで愛唱されている有名な歌で、調は嬰ヘ長調(楽譜の頭に付く調号のシャープが6個と結構見た目は複雑なのですが、ワルツにも似た3拍子のメロディは印象的でとても覚えやすくなっています。

最初の前奏は、鎖を引きずる音や川辺の鳥の鳴き声、イスラエルの民の嘆きや思いを馳せる様子など、風景や心の動きをイメージさせるようなメロディとなっています。

このように、前奏で周りの雰囲気作りを始めた後に、静かに合唱が始まります。
 

<合唱の歌詞>

−前半は望郷の念、後半は神への祈りが主体−

歌詞の内容は、下表の通り、前半部分が、自分たちの思いを遠く離れたイスラエルとその都エルサレムに馳せる様子後半部分が、「預言者の竪琴」に自分たちの境遇と神への祈りを託す気持ちを歌っています。

歌詞に書かれた人々の思いは、オーストリア帝国の圧政下にあったイタリア北部の人々の思いに一致し、統一運動のシンボル、そして「第二国歌」と言われるまでイタリアの人々に愛唱されたのです。
 
原語の歌詞 日本語対訳

<EBREI>
Va, pensiero, sull'ali dorate;
Va, ti posa sui clivi, sui colli,
Ove olezzano tepide e molli
L'aure dolci del suolo natal!

Del Giordano le rive saluta,
Di Sionne le torri atterrate...
Oh, mia patria sì bella e perduta!
Oh, membranza sì cara e fatal !

Arpa d'ôr dei fatidici vati,
Perché muta dal salice pendi?
Le memorie nel petto raccendi,
Ci favella del tempo che fu!

O simile di Solima ai fati
Traggi un suono di crudo lamento,
O t' ispiri il Signore un concento
Che ne infonda al patire virtù!
Patire virtù...

(イスラエルの民)
行け、思いよ、金色の翼に乗って、
行け、おまえは山に丘に憩い、
そこでは、暖かく柔らかい
祖国の甘いそよ風が薫っている!

ヨルダンの川岸へ挨拶を届けよ、
倒されたシオンの塔にも・・・
あぁ、わが麗しの失いし祖国よ!
あぁ、懐かしくも酷い思い出よ!

運命を預言する預言者の竪琴よ、
なぜ柳の木に掛かって黙っている?
胸の中の思いを再び掻き立てる、
過ぎ去りし日を我らに語るのだ!

又は運命のソリマ
(エルサレム)と同じ
辛く悲しい響きをもった悲劇の詩を、
さもなくば、辛苦に耐えうる勇気を
呼び起こすような快い主の霊感を!
苦しみに負けない強き心を・・・
 

ちなみに歌詞に出てくる以下の言葉は、それぞれが祖国の都エルサレムや古代イスラエル王国に関連していますので、歌詞の意味をより分かっていただくために、ご参考まで簡単に解説します。

ヨルダンの川岸:
滅亡した古代イスラエル王国の国境を指していると思われます。
ヨルダン川は、有名な「死海」を河口とする川で、現在もイスラエル(パレスチナ自治区)とヨルダンの国境となっています。
歌詞では、この言葉の次に「シオンの塔」と出てくるので、自分たちの思いが国境から祖国の都まで馳せられていく様子が分かります。

シオンの塔:
城塞都市だったエルサレム城内の見張り塔で、かつてダビデ王が築いたとされる象徴的建造物の「ダビデの塔」と同一かと思われますが、おそらくここでは「破壊されたエルサレム」の象徴として歌われているのでしょう。
「シオン」とは、もともとエルサレム東丘を陣取っていた異民族エブス人の「要塞」を指していましたが、紀元前1000年頃ダビデ王がこれを陥落させて、政治的中枢を担う「ダビデの町」としたことから、いつしかエルサレムそのものの別名となりました。
現在もエルサレムに「ダビデの塔」と称する要塞がありますが、これはダビデ王の時代から約1000年後に建造されたもので、誤解から名付けられてしまった全くの「別物」です。

柳の木に掛けられた竪琴:
イスラエルの民はバビロンで実際に竪琴を枝に掛けていたとされています。
「竪琴」は、古代エルサレム王国の絶頂を築いたダビデ王の象徴とも言える楽器で、彼は王となる以前は美しい音の竪琴を弾く羊飼いの少年でした。
バビロンで奴隷となっていたイスラエルの民は、「異国の地で神をたたえる歌など歌えぬ」(旧約聖書の詩編より)という意味と、望郷の念を忘れぬために、あえて竪琴を柳の木に掛けていたと思われます。

ソリマ:
歌詞の()の通り「エルサレム」のことなのですが、「エルサレム」のラテン語読みが「ヒエロソリマ」で、この言葉から「ヒエロ(神聖なる)」の接頭詞が脱落したものです。
おそらく異民族に破壊されて「神聖さ」を失ったエルサレムを悼む意味から、あえてこのような呼び方にしたものと思われます。


参考および写真出典:
イタリアオペラ対訳双書23 「ナブッコ」 (アウラ・マーニャ)
名曲解説ライブラリー ヴェルディ/プッチーニ (音楽之友社)
大作曲家の世界5 (音楽之友社)
世界の美術4 ファラオの秘宝、聖地エルサレムとメッカ
(主婦の友社)
クラシック音楽史大系6 (パンコンサーツ)
バビロニア−われらの文明の始まり (創元社)
伊和中辞典 (小学館)

文・構成:
岩田 倫和(チェロ)

2005.11.9作成

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