(C) 関西シティフィルハーモニー交響楽団
(アマチュアオーケストラ,大阪市)

歌劇「アイーダ」

−その2:オペラのストーリー−

<登場人物について>
−愛し合う一組の男女と古代エジプト王国の権力者たち−

独唱者となる主な登場人物は以下の7人で、ほか合唱となる集団での役として、 古代エジプト王国(以下「エジプト」と略)の民衆、司祭、巫女、兵士、そしてエチオピアの捕虜などがあります。
 

アイーダ(ソプラノ ):エジプトの女奴隷(エチオピアの王女)

このオペラの主役(タイトルロール)となっているエジプトの女奴隷なのですが、実はエジプトの敵国エチオピアの王女であり、その素性は誰も知りません。
彼女はこともあろうに、祖国の敵たるエジプトの衛兵隊長ラダメスと相思相愛の仲になっているのですが、その「愛」こそ、オペラ「アイーダ」のすべての悲劇の元となっています。
アイーダの愛は出身や身分の違いから、もともと成立するものではなかったのですが、皮肉にも彼女自身が荷担した策略によって、ラダメスが処刑されることとなり、最後にお互いに寄り添って死ぬことで「成立」したのです。

ラダメス( テノール):エジプトの衛兵隊長でアイーダの恋人

オペラ「アイーダ」の原案者オーギュスト・マリエットによるラダメスの衣装デザイン画

エジプトの国防を担う若き衛兵隊長で、司祭長のラムフィス曰く「若く力のあるもの」と、国内でも極めて高い評価を得ています。
彼は(現代の軍隊の階級で言えば)将軍クラスの超エリートなのですが、それにもかかわらず女奴隷のアイーダを深く愛しています。
しかし、アイーダへの愛については、身分の違いのこともあって、誰にも話さず秘中の秘としていますが、エジプトの王女アムネリスにあっさり見抜かれてしまいます。

また、オペラ中でエジプト軍の総司令官に任ぜられ、エジプト国内に攻め入ったエチオピア軍を撃退するという大役を担わされますが、見事にその任を果たして、勝利の凱旋を果たします。しかも、王女アムネリスの婿となり、次期ファラオになるようファラオから言い渡され、これ以上ない地位を手に入れます。

しかし、アイーダへの愛ゆえに、エジプトの国防に関わる軍事機密をアイーダとその父で敵国エチオピアの王アモナズロに漏らしてしまい、逃亡の手助けまですることから、祖国の裏切り者として、処刑される身となります。
愛に狂ってしまったような彼ですが、祖国への裏切りは「消せない罪」だと自覚して、裁判の場で司祭達にも一切の申し開きもしませんでした。
そして、最後は誇り高き軍人にふさわしく、おごそかにアイーダと祖国への「愛」に殉じ、地下牢の中で生き埋めとなって生涯を閉じます。

<左上の絵>ラダメスの衣装デザイン画
オペラ「アイーダ」の原案者オーギュスト・マリエットがデザインしたものですが、

(白布の腰巻き程度だった)古代エジプト王国時代の服装とは全くかけ離れたもので、
アメリカ・インディアンやローマ帝国時代の服装を掛け合わせたような感じです。

アムネリス( メゾソプラノ): エジプトの王女

エジプトの王女でアイーダと同様にラダメスを深く愛しています。
それゆえ、ラダメスとアイーダの相思相愛を敏感に察知し、それに激しく嫉妬の炎を燃やします。
(そう言う意味では、オペラ「ナブッコ」のアビガイッレと同じ立場なのですが、その感情の描き方は「ナブッコ」より遙かに緻密となっています。)
彼女はラダメスの凱旋によって自分の婿になることを喜び、アイーダに勝ったと思いこみますが、ラダメスの愛が自分に向けられてないことを知って悲嘆に暮れます。
それでも、ラダメスが罪人となって処刑される際に、助命することで、自分の「愛」を受け入れてもらおうとしますが、「実直な軍人」ラダメスには通用せず、彼は地下牢で生き埋めとなります。
そんな彼女に出来たことは、喪服を着て、愛する人の冥福を祈ることだけでした。

ラムフィス( バス):エジプトの司祭長

エジプトの神々に仕える司祭達の長で、宗教界のトップとも言うべき存在です。
彼の権力はファラオに匹敵するほどの絶大さで、神々の名を借りれば「ご神託」と称して、軍総司令官の任命から罪人の裁判、処刑に至るまで、軍事や司法への特権行使が許されています。
その「ご神託」によって、ラダメスはエジプト軍の総司令官に任命され、そして最終的には罪人となったラダメスに死が宣告されるのです。
ラムフィスら司祭達は、往々にして捕虜や罪人となったラダメスの死罪を真っ先に望むなど、「強大な権力」と「非寛容」の象徴として描かれています。
(「ナブッコ」や「ドン・カルロ」などのヴェルディのオペラでは、宗教界の頂点にある者が同じような象徴として描かれることが多くあります。)

ファラオ(バス): エジプトの国王

オペラ「アイーダ」の原案者オーギュスト・マリエットによるファラオの衣装デザイン画

文字通りエジプトを治める国王です。

オペラ「アイーダ」は、ファラオの権力が絶大だったときの話となっていますので、彼の言葉は誰も逆らうことの出来ない絶対のものであったのです。

その言葉は、ラダメス軍団を戦場に向かわせ、凱旋したラダメスが望んだ褒美(エチオピア軍捕虜の解放)を約束通りに与えました。

しかし、それに続いた彼の言葉は「王女の婿となりエジプトを治めよ」・・・ファラオたる彼にとっては、ラダメスに与えられる最大の「褒美」だったのですが、更なる褒美としてアイーダとの結婚を望んでいたラダメスにとっては、絶望を与える「命令」に過ぎませんでした。

ちなみに彼はエジプトの最高権力者なのですが、哀れなことに後半部(第3幕以降)の出番はありません。
 
<左の絵>ファラオの衣装デザイン画
ラダメスと同じくオペラ「アイーダ」の原案者オーギュスト・マリエットがデザインしたものです。
これもまた古代エジプト王国時代のファラオの服装とは全くかけ離れたもので、ローマ帝国時代の服装に近くなっています。

アモナズロ( バリトン):アイーダの父(エチオピア国王)

エジプトの宿敵エチオピアの国王で、アイーダの父です。
オペラの中間部に当たる第2幕の凱旋の場の後で、エチオピアの捕虜の一人として初めて登場しますが、彼はアイーダに会うなり「私の素性はしゃべるな」と言って、アイーダの父である以上の素性は明かさぬよう厳命します。
その理由は、エジプトに敗戦して多くの略奪を受けた恨みが根強く残っていて、その復讐を果たすまで死にたくないという執念からです。
そしてその執念ゆえ、娘のアイーダがラダメスの恋人であることを利用して、まんまと国外逃亡に最適なルートをラダメスから聞き出すことに成功し、見事に逃亡を果たします。
が、その努力もむなしく、復讐を果たすことなく逃亡中に殺されてしまいます。

使者(テノール): テーベからの戦況報告者

第1幕でしか出てこない端役ですが、そのオペラ上での役割は、エチオピア軍のテーベ(現在のルクソール)への侵略状況を正確に伝えるというきわめて重要なものです。
ちなみに、第2幕グランドフィナーレの合唱には、「さあ来るのだ、復讐の勇者達よ・・・」という歌詞が出てきますが、これは、このオペラでのエジプトの戦争が、あくまでエチオピアの侵略に対する「祖国防衛戦争」であり 、侵略に対する「報復攻撃(=復讐)」であることからきています。
(単なる「エジプトとエチオピアの戦争」ではないことに注目してください。)

ちなみに、オペラ「アイーダ」の人物設定については、以下の通りかなりハチャメチャなんですが、何でもアリのイタリアオペラの世界では、ここまでしないと国家レベルの壮大な「愛」の悲劇にはなりませんので、決してツッコミは入れないでください・・・

アイーダ: 有名な王女でありながら奴隷、しかも素性がばれてない。ラダメスとの恋愛も超強引な設定。
ラダメス: 自分がファラオとなった後にアイーダを妾にすることを考えなかった、すごく現代的な発想の人。
アムネリス:名実とも王女なのに、(いつでも処刑できるはずの )女奴隷に本気で嫉妬している。
ファラオ: 本当は一番偉い人なのに影が薄い。ラダメスの引き立て役にしかなっていない。
ラムフィス: そのファラオ以上に目立ちまくって、軍事に司法にエジプト最強の権力を振るっている。
アモナズロ: エチオピア軍を先頭で率いていたはずなのに、エジプト側は誰も彼の正体が分からなかった。

 

<ストーリーについて>
−「愛」に戦い、「愛」に苦悩し、「愛」に殉ず・・・全ては「愛」だ−

オペラ「アイーダ」は、ファラオ全盛期の古代エジプト王国を舞台とした、全4幕7場(3回幕が下りて、6回の場面転換がある)、総演奏時間は約2時間30分の壮大なスケールで描かれる「愛」のオペラです。
以下に、そのストーリーを簡単に解説いたします。
 

(第1幕:エチオピアのエジプト侵攻)

ギザのピラミッド群の遠景写真
(砂漠にかすむギザのピラミッド群−古都メンフィスの近くで)
最大級のピラミッド群で知られるギザは、第1幕の舞台メンフィスの隣です。
メンフィスはエジプト古王朝時代(紀元前およそ3000年〜2160年頃)の都として、
南のテーベに遷都したエジプト中王朝以降(紀元前2160年頃〜)も栄えました。

オペラ「アイーダ」の時代設定を考えてみると、都の位置とファラオの権力から
推察して、古王朝の第4〜5王朝(紀元前2700〜2500年)あたりが妥当でしょう。
ちょうどファラオが太陽神の子として崇められ、クフ王やカフラー王などによって、
神権の象徴たる数多くの巨大ピラミッドが精力的に建設されていた頃のことです。
 

−第1場:メンフィスの王宮−
 

メンフィスの創造神「プタハ」(オペラでは「フター」)の絵

ピラミッド群を遠くに望むメンフィスの王宮の広間で、司祭長ラムフィスと衛兵隊長ラダメスの二人が話し合っています。
エチオピアの侵略軍が、エジプト領内に侵入し、南のテーベ
(現在のルクソール)を襲撃しつつあるとの情報が入ってきたとのことで、司祭長ラムフィスは、女神イシスの神託により、敵を撃退する防衛軍の総司令官が決まったのでファラオに報告すると、(いかにも「おまえのことだ」と言わんばかりに)衛兵隊長のラダメスに告げます。
ラダメスは、それが自分だったらどんなによいかと、戦勝の褒美に
(恋人で奴隷の)アイーダとの結婚を許してもらうのだと勝手に妄想を始めてしまいます。

そこへエジプトの王女アムネリスが登場し、妄想で悦に浸っているラダメスを見て、そのまなざしを誰に向けているのかと詮索します。 それにラダメスが気付き、まずいと思いましたが、その時入ってきたアイーダをバカ正直に見てしまったために、見事にばれてしまいます。
アムネリスは嫉妬心を何とか隠しつつ、引け目を感じているアイーダにプレッシャーをかけます。

(左上の絵:メンフィスの創造神「プタハ」)

古代エジプトのルーツとも言える古都メンフィスの創造神は「プタハ(Ptah)」で、
最初の都にふさわしく「世界の創造神にして永遠の神」と崇められていましたが、
一方で古代エジプトで重要な位置を占めた「工芸」の神としても有名な存在でした。
プタハ神はウアス杖を持つミイラ姿の男性で描かれており、時代の流れによって
冥界の神オシリスや職人の守護神ソカルと同一視されるようになりました。

ちなみにオペラ「アイーダ」では、プタハは「フター(Fthà)」の名で登場しますが、
これは、マリエットの誤訳か、台本作成時の音訳で微妙になまったのでしょう。

そこへファラオ以下エジプトの軍人や司祭たち、そしてテーベからの使者が入ってきます。
そして、使者の口からエチオピアからの侵略がテーベまで迫っていること、それを率いているのがエチオピア国王アモナズロであることが報告されると、ファラオは、女神イシスの神託により、侵略軍を撃退するエジプト軍の総司令官としてラダメスを任命しました。
「勝って帰れ」と励ます大臣や司祭たち、望み通りの結果に武者震いするラダメス、ラダメスに軍旗を渡すアムネリス、そして自分の恋人と父親が敵同士で戦うという最悪の結果に嘆き、独白するアイーダ・・・それぞれの思いが交錯します。

−第2場:メンフィスのヴルカーヌス神殿−

巫女たちが「永遠の神フターよ・・・」という神秘的な歌声と舞いを捧げている中、ラダメスは聖剣をラムフィスから与えられ、聖なる武具を装着します。

(筆者注) 第1幕第2場、第4幕第2場の舞台「ヴルカーヌス神殿」について

このオペラの重要な舞台の一つ、「ヴルカーヌス神殿」は、エジプトには存在しない架空の神殿なのです。
「ヴルカーヌス」は、「火、冶金、武具の神」として登場しますが、実はエジプトの神ではなく、ローマ神話の神の一人「ウルカヌス」(ギリシャ神話では「ヘパイストス」)と同一で、「ヴルカーヌス」そのものが、オペラ上でエジプトの神として「創造(借用)されたもの」です
エジプトはもともと「砂と石の文化」であり、金属(金銀銅鉄)に関しては、ヌビア(エジプトの南、現在のスーダンあたりの地名)やヒッタイト(現在のシリアあたりにあった古代国家で、世界史上初めて鉄器を使用した)などの外国からの貢ぎ物や争奪品がほとんどで、自国内に大した金属資源がなかったため、神をもうけて崇めることもなかったようです。


 

(第2幕:アムネリスの嫉妬とラダメスの凱旋)

−第1場:アムネリスの館の広間−

エチオピアの侵略軍がエジプト軍に敗れて潰走したとの知らせがアムネリスたちに届き、アムネリス付きの女奴隷たちが、踊りと歌で祝福しながらアムネリスを取り囲んでいます。自分の愛する者の勝利にアムネリスもご満悦の様子です。
(ここでアムネリスを祝うように、子供たちのかわいい踊りが披露されます。)

そこへ、ラダメスと祖国への愛の狭間で苦悩するアイーダが登場しますが、ラダメスの凱旋はまだ知らない様子です。
その様子を見たアムネリスは一計を案じ、アイーダをいたわるふりをして、ラダメスは死んだとウソをつき、アイーダの本心を探ろうとします。
そして、アイーダがそれにだまされて、ラダメスへの愛を明白にすると、アムネリスは身分の違いを盾にして、嫉妬心を露わにしてアイーダに対抗します。
アイーダも負けずに自分の身分を明かそうとしますが、まずいと思ってすんでの所で踏みとどまり、ただただ自分の残酷な運命を嘆くばかりでした。
 

−第2場:テーベの城門(特設の凱旋門)−
 
ルクソール神殿の門前のオベリスクとラムセス2世像の写真

所は変わって、メンフィスの遙か南の都市テーベの城門ですが、そこには、特別に建設された戦勝記念の凱旋門があります。

ラダメス率いるエジプト軍がエチオピアの侵略軍を破ったとの報せはエジプト中に響き渡り、ファラオを始めとするエジプトの王族や重臣たち、ラムフィスを始めとする司祭たち、そしてエジプトの民衆や奴隷のアイーダまでもが凱旋門の前にこぞって集まりました。

(※)
そして、凱旋を告げるラッパの音
その音に勇者たちの凱旋を感じた民衆たちは、「エジプトとその大地の守護神イシスに栄光あれ!」と、祝勝の合唱を歌い始めます。
女性たちの艶やかな合唱に続いて、司祭たちの力強い神々への讃歌が響き渡ります。

それが終わると、勇壮な凱旋行進曲に乗って、エチオピアを降した兵士たちの凱旋が始まります。兵士たちに続いて、戦車や軍旗や神々の像、そして敵から奪った戦利品の数々も行進します。

(左上写真:ルクソール神殿の門)
古代エジプト中王朝以降の都テーベにあったルクソール神殿の堂々たる門構えです。
数多くの遺跡のあるルクソールにあって、この門は最大級の規模と威厳をもっています。
門の両外側には「オベリスク」と言われる尖塔型のオブジェが建っていましたが、一方が
フランスへのプレゼントとして、パリのコンコルド広場に移設されているのは有名な話です。
その両内側の坐像は、新王朝時代の王ラムセス2世(紀元前1298-1232)のものです。

ラムセス2世は、鉄製武器を駆使した強敵ヒッタイトなど、外国と多くの戦役を行った一方、
自分の理想像をかたどった石像や神殿などの建築物を数多く製作させ、いつのまにか
エジプトの「顔」と言っていいほど、石像の形で一番多く見られるファラオとなりました。

ちなみに、このルクソール神殿の門の前では、実際にオペラ「アイーダ」の野外公演が
行われたこともあり、壮大な内容にふさわしい背景として現代でも重宝されています。

それらの行進が一通り終わると、華やかな舞踏音楽に乗って、戦勝記念の踊りの数々が皆の前で披露されます。

踊りが終わると、民衆や司祭たちが全員で凱旋を祝う大合唱を歌う中、皆が待ちかねていた総司令官ラダメスの威風堂々たる凱旋が始まり、この一大スペクタクルは頂点を迎えます。
(※)

(以上2つの(※)印の間が、今回演奏する「第2幕グランドフィナーレ」の部分となります。)


華やかな凱旋が終わったところで、ファラオがラダメスの労をねぎらい、ラダメスは最後の「戦利品」として、エチオピア軍の捕虜たちをファラオの前に連れてきます。

そこには何と、エチオピア軍を率いた国王アモナズロの姿もありました。
しかし、それに気付いたのは娘のアイーダだけでした。
アモナズロは、アイーダの姿を見ると「私のことはばらすな」と言って、国王であることを伏せさせます。
その様子を見てファラオは、アモナズロに「おまえは何者か」と聞きます。
そこで、アモナズロは、自分はアイーダの父で、国王に仕える兵士の一人だったが、国王は死んだと言い、もはや国王を失った捕虜に戦意はないと、ファラオの慈悲を乞います。
その後、捕虜への慈悲を求める民衆と、死罪を言い張る司祭との間で口論が起こりますが、アイーダの父への愛にほだされた凱旋将軍のラダメスは、戦勝の褒美を盾に、捕虜全員の解放を求めます。

そのこともあって、ファラオは捕虜の解放を宣言しますが、司祭長ラムフィスの意見も尊重し、エジプトとエチオピアの安全保障の証として、アモナズロとアイーダ親子をエジプトに残すよう言い渡します。
そして、ラダメスに更なる褒美と安全保障の証として、愛娘のアムネリスを与え、次期ファラオとなってエジプトを治めるよう言い渡します。
これにエジプト国民は大いに喜びますが、当のラダメス本人はアイーダとの結婚がふいになったことで、大いに失望します。
また、アムネリスはアイーダに勝ったと上機嫌になり、アイーダは愛の終わりを覚って嘆きにくれます。
そして、アモナズロは復讐のための計略を巡らすのでした。

 

(第3幕:アモナズロの策略とラダメスの後悔)

アギルキア島(新フィラエ島)のイシス神殿の写真(神殿下部に残る「黒い線」は、旧フィラエ島時代の喫水線の跡)
(アギルキア島(新フィラエ島)にあるイシス神殿)
このイシス神殿は、プトレマイオス王朝時代(紀元前306〜30年)に、エジプト南部の
アスワン近郊にあるナイル川の中州であった(旧)フィラエ島に建設されました。
アスワン・ハイ・ダムの建設により(旧)フィラエ島が湖底に水没し、神殿の一部が
水に浸ったため(その時の喫水線が神殿の下部の「黒い筋」として残っています)、
神殿内部の劣化が起こり、現在のアギルキア島(新フィラエ島)に移築されました。


−ナイル川の岸辺、イシス神殿の近く−
 

死と再生の女神「イシス」の絵

ラダメスの凱旋からしばらく経ったある夜のこと。

アムネリスは、ラダメスとの婚礼を翌日に控え、ラムフィスや衛兵たちを伴って、ナイル川の岸辺にあるイシス神殿へ祈りに出てきます。
アムネリスはラダメスの心が自分に向くよう、夜明けまで祈るべく、ラムフィスらとともに神殿へと入っていきます。

それと入れ違いで入ってきたのはアイーダ、ラダメスから話があるとのことですが、別れ話だろうと悲嘆に暮れます。
そこへ登場したのはアモナズロ、彼はアイーダに復讐の計略を持ちかけ、ラダメスにエジプト軍の進路を言わせるよう、手伝ってほしいと頼みます。
一度は断るアイーダでしたが、父と祖国を裏切るのかとのアモナズロの恫喝におされて、ついに引き受けてしまいます。

(左上の絵: 古代エジプト王国の「母」にして死と再生の女神「イシス」)

数多くの古代エジプト王国の神々の中で、1,2を争うほど有名な女神「イシス」は、
冥界の神オシリスの妹かつ妻で、ファラオの守護神ホルスの母とされています。
また、絶大な力を持つ太陽神ラー(某RPGのアイテム「ラーの鏡」でおなじみ)から
その力を剥奪し、神々を支配する絶大な権威を引き継いだともされています。
(その証が、彼女の頭にある「玉座」を意味する象形文字(ヒエログリフ)です。)

彼女は一度死んでしまった夫のオシリスを蘇生させたことから、「死と再生」を司り、
息子のホルス神を自らその胸に抱いて授乳して育てたことから「母性」の象徴として、
古代エジプト時代から、国と時代を超えてローマ帝国時代まで長く崇められました。
特に「母性」の面はそのままキリスト教にも引き継がれ、聖母マリアが幼いイエスを
抱いて授乳する姿に変わって、現代に続く聖母マリア信仰の基礎となりました。

ちなみにオペラ「アイーダ」の台本では、イシスは「Iside(イジィデ)」の名前で
書かれていますが、さすがに有名な女神なので、プタハ神のように日本語訳で
イタリア語の発音そのままに「イジィデ」と訳されることはないようです。

そして、アモナズロが物陰に隠れた直後にラダメスが登場し、彼はエチオピアによるエジプト侵略が再び始まったことを口にし、再び総司令官となって勝利した後に、今度こそアイーダとの愛をファラオに話すと言います。
しかし、アイーダはアムネリスがいる以上、それは無理だろうと言って、ラダメスとエジプトから逃げることを提案し、その際に最適な逃走経路はどこかと聞きます。
アイーダへの愛に逆らえなくなったラダメスは、ついにエジプト軍の進路と、進軍までの間、その進路はわざと兵はおかず、無防備にすること・・・決して言ってはならない最高の軍事機密をしゃべってしまいます。
その直後、「ではそこへ我が軍を配備する!」と、アモナズロが物陰から出て、自分がアイーダの父でエチオピア国王であることをラダメスに言い放ちます。
その時点で、ラダメスは自分がしでかしたことの重大さを覚り、祖国を裏切った気持ちに打ちひしがれます。

そこへ、さらに追い打ちを掛けるようにアムネリスやラムフィス、衛兵たちが現れ、アモナズロを見たラムフィスがアイーダ親子を捕らえるよう衛兵に命じますが、ラダメスが衛兵たちを止めて、アイーダ親子を逃がしてしまいます。
ラダメスはアモナズロが一緒に逃げるよう促したにもかかわらず、ラムフィスに対して「ここに留まります」と言って、身柄を拘束されます。
栄光ある次期ファラオの凱旋将軍が、ただの罪人に墜ちた瞬間でした・・・
 

(第4幕:永遠の愛は死都へ)

−第1場:メンフィスの王宮の広間と地下法廷−

身柄を拘束されたラダメスは、罪人として王宮の広間の先にある地下牢へ投獄されています。
王宮の広間にアムネリスが入ってきて、罪人となってもなお愛するラダメスを何とか救いたいと思います。
そこで、アムネリスはラダメスを衛兵に地下牢から連れてこさせ、ラダメスに身の潔白を弁明するよう説得しますが、アイーダが逃亡中に殺されたと思いこんでいたラダメスは、自分の罪は逃れ得ぬものとして、死ぬ覚悟を決めていたため、彼女の提案に全く応じませんでした。

アムネリスは、アモナズロは逃亡中に死んだが、アイーダは生きてさらに逃亡していると言って、アイーダをあきらめ、自分の愛を受け入れるならファラオに懇願して助けてやろうと、さらに説得します。
アイーダの生存を喜んだラダメスでしたが、アイーダへの愛と死ぬ覚悟には変わりはなく、アムネリスの説得に全く応じませんでした。

「ならば死ぬがいい」と言って、さじを投げたアムネリスでしたが、容赦なき裁判官たる司祭たちにラダメスが連れて行かれる様子を見て、改めてラダメスを愛する自分に気付いて悲嘆に暮れるのでした。

そして、地下法廷でラムフィスら司祭たちによるラダメスの裁判が始まりました。
ラムフィスは三度にわたってラダメスの罪状を宣告した上で、ラダメスに弁明するよう求めますが、ラダメスは三度とも全く応える様子を見せず、沈黙を通します。
その様子に業を煮やしたラムフィスら司祭たちは、ついにラダメスに対して、祖国への裏切り者として「生き埋めの刑」・・・残酷な死罪を言い渡します。
司祭たちの容赦ない裁きに呪いの言葉を投げつけるアムネリスでしたが、どうにもならない状況に、ただただ泣き崩れるばかりでした。
 

−第2場:ヴルカーヌス神殿の地下牢−

カルナック・アメン大神殿のラ支柱(ムセス3世のオシリス柱)の写真
(カルナック・アメン大神殿にあるラムセス3世のオシリス柱)
第4幕第2場の舞台となるヴルカーヌス神殿の地下は「オシリス柱」が支えている
との設定になっていますが、「オシリス柱」とは、エジプトの冥界の神にして不死の
象徴とされた神「オシリス」の姿をかたどった柱で、神殿の支柱に使われていました。
オシリス柱は通常、それを建造したファラオの姿をオシリスに似せて作っていました
ので、ラムセス3世神殿のオシリス柱は「ラムセス3世のオシリス柱」となるわけです。

両腕を組んだ厳つい顔つきの神に見守られながら、死者の都(ネクロポリス)へと
旅立とうとしていたラダメスの胸中は、さぞかし落ち着かないものだったでしょう。
・・・ただそれはラダメスが来るのをずっと待っていたアイーダの方も同じですね。
 

冥界の神にして不死の象徴である「オシリス」の絵

一切の弁明や命乞いもせず、ラダメスは粛々と愛と罪に殉ずるべく、入ったら最後、決して表に出ることのないヴルカーヌス神殿の地下牢へと入ってきました。

そして、司祭たちはその入口を巨石で完全に封じてしまい、地下牢はラダメスの「石棺」と化しました。

ラダメスは死の覚悟を決めながらもアイーダの無事を願っていましたが、そこに人影を見ます。
・・・それは何とアイーダでした。彼女はラダメスの死の運命を覚って、祖国へ逃げ帰らず、わざわざエジプトに戻ったばかりか、愛する者と死を共にすべく、地下牢の中に予め入り込んでいたのです。

(左上の絵:冥界の神にして不死の象徴「オシリス」)

古代エジプト王国の神々の中で、イシス女神と並ぶほど有名な神「オシリス」は、
元来は農作物の豊穣を司る神で、イシス女神の夫、ホルス神の父とされています。
古代エジプトに広く伝わった「オシリス神話」では、弟のセト神と戦って絶命しますが、
妻のイシス女神の秘術によりミイラとして蘇生し、冥界の神になったとされています。

ファラオは死後オシリス神になると言われ、ファラオの死後の化身でもありました。
そこでオシリス柱は、当時のファラオの姿を似せて作るようになったと考えられます。

ちなみにオペラ「アイーダ」の台本では、オシリスは「Osiride(オジィリデ)」の名前で
書かれていますが、彼もイシス同様に有名な神なので、プタハ神のように日本語訳で
イタリア語の発音そのままに「オジィリデ」と訳されることはないようです。

ラダメスは驚いて、せめてアイーダだけでも出そうとしますが、入口を塞ぐ石は微動だにしません。
ついにラダメスはあきらめ、アイーダとともに死ぬ覚悟を決めます。

そこへかすかに流れてきたのは、あの巫女たちのフター神を讃える歌でした。
かつて戦いに赴くラダメスの無事を祈っていた歌が、愛と罪に殉ずる自分たちへの鎮魂歌となってしまうという皮肉さを感じつつ、二人は現世への別れの二重唱を歌いつつ、静かに永遠の眠りにつきます。

そして、最後にそんな状況を知らないアムネリスが喪服を着て登場し、愛するラダメスの冥福を切に祈りつつ、巫女たちのフター神を讃える歌と混じり合って、この壮大なオペラの幕が閉じられます。
 

文・構成: 岩田 倫和(チェロ)

2005.11.17作成
2005.11.28追記

演奏会記録のページに戻ります。 歌劇「アイーダ」より(その3:第2幕グランドフィナーレについて)に続きます。