(C) 関西シティフィルハーモニー交響楽団
(アマチュアオーケストラ,大阪市)

ペレアスとメリザンド
− 第4幕 −



<第1場:城の廊下>
−オペラ:第1場−

第4幕第1場:城の廊下で向かい合うペレアスとメリザンド

ある日のこと、ペレアスは城の廊下でメリザンドと落ち合い、今夜どうしても話さないといけないことがあるからぜひ会いたいと言い始めた。(注1)
「いいわ。」と承諾するメリザンド。

ペレアスは続けて、父親の病状が奇跡的に回復し、瀕死の状態から会話が出来るぐらいに快癒したこと、その時母親のジュヌヴィエーヴがうれし涙に暮れて、病室の窓が開放され、城全体の雰囲気も明るくなった(注2)ことを嬉しそうに語った。
そして、病床の父親がペレアスに忠告した(それらの雰囲気とは裏腹の)内容について話した。

その話の内容とは、「ペレアスよ、今のお前の顔には死ぬ間際の人間の見せる哀しくもありながら、人なつっこそうな様子が見られる。ぜひ旅に出ることだ。」という、死にたくなければこの城から逃げろと言わんばかりの不吉な忠告であった。(注3)

そうやって話している間に来客の話し声が聞こえ始めたため、ペレアスは時間が余りないと悟ったのか、性急になって、改めて今夜城の外苑にある「盲目の泉」の前で会うことをメリザンドと約束した。

更にペレアスは、父親の忠告に従い、遠いところへ旅立つこと、そして今夜が最後の晩であり、旅立てばもう二度とメリザンドに会うことはないと告げた。

当然のようにメリザンドは嫌がり、「いつもいつも貴方に会い、じっと見つめていたい」と言って、旅立ちを引き留めようとした。
が、ペレアスは「それは出来ない相談だ。遠くへ旅立てばもう会えないから・・・」と言って断り、さらに「今自分は悦びに満ちあふれている。」と、前言とは裏腹に、言いしれぬ悦びに浸っている様子だった。(注4)

そのようなペレアスの不可思議な言動にメリザンドは困惑するが、来客の外国人の話し声がより大きく聞こえるようになってきたため、ペレアスが話を打ち切り、二人はその場で別れた。


<第2場:アルケルの居室>
−オペラ:第2場−

第4幕第2場:椅子に腰掛けているアルケルと向かい合っているメリザンド

メリザンドはペレアスと廊下で別れた後、国王アルケルの居室に赴いた。

アルケルも「死の老いたる使者、病がこの城を去ったので、今まで暗かった城の雰囲気がたいそう明るくなった」と言って、ペレアスの父親が助かったことを喜んでいた。

また、彼はメリザンドがこの城に嫁いだ当時、少女のようにはしゃいでいたのが、この城に入った瞬間にその表情が曇ったことも取り上げ、そのことが気になって仕様がなかったとも言った。その様子は城に入ってからも続き、表面上では何とか取り繕っていたものの、内面的には何か不安に取り憑かれたようにそわそわしている様子が伺えたとも言った。(注5)

そして、メリザンドの美しさを「このような昼夜を問わず死の息がかかったような城に来るには、おまえは若くて美しすぎる・・・私の垣間見た新時代の扉はそなたが開く・・・」などと、あたかも自分の新妻か恋人であるかのように賞賛し、「お前にキスしたのは嫁いだとき一度きりであったが・・・老いて皺だらけの唇は怖いか?・・・このような老人も時には若い女性の肌に触りたくなるようなこともあるのだ・・・私はお前が不憫でならなかったのだよ・・・」などと言った。

しかし、メリザンドは「おじいさま、私は少しも不幸とは思ってませんでした・・・(注6)」とアルケルの不安をぬぐい去るかのように優しく言った。

その言葉にアルケルは「自分が不幸であっても、そうとは知らぬだけなのだろう・・・」と答えたが、それでも「もっと近寄ってそなたの顔を見たい・・・」と言って、メリザンドの若くて美しい顔を改めて間近で見ようとした。(注7)

そこへゴローが突然入ってきた。
ゴローは「ペレアスはいよいよ今夜旅立ちます」とアルケルに報告したが、その額には血が付着していた。茨の生け垣を通ったときに出来た傷から出血したという。(注8)
それを拭おうとしたメリザンドをゴローは荒々しくはねのけ、「お前とは口を利きたくもない!」と言い放った。そして、彼女に自分の剣の在処を聞き、それを取ってくるように命令した。

また、ゴローはアルケルに「海岸で餓死している農夫が見つかったと聞いた。あいつらは当てつけがましく我らの目の前で一人残らず死ぬ気ですぞ(注9)」と言うと、剣を持ってきたメリザンドの方を向き、「何を乞食でも見るような目でわしを見るのだ・・・まるで私は清純無垢ですと言わんばかりの目で・・・」と言った後、「父上はこの目がどのように見えますか?」とアルケルに投げかけた。

第4幕第2場:しゃがんでいるメリザンドの髪を乱暴につかむゴローと止めに入るアルケル王

アルケルが清純無垢そのものしか見えないと言うと、ますますゴローの言動に異様な雰囲気が漂い、「清純無垢とは畏れ多い・・・この目は何か大きな秘密を隠しているのです・・・さあ、わしが今その目を閉じてやろうか・・・これがわしの流儀だ・・・さあ、こっちに手を出してみろ・・・逃げることはないだろう・・・(注10)」と言って、恐れおののくメリザンドににじり寄ると、いきなり髪を掴みだした。

「さあ! もう逃げられんぞ! そこへ跪いてわしの命令に従え!・・・膝を地に付けろと言うのだ! アブシャロム(注11)めが!・・・この長い髪が役に立つな・・・右へ、左へ・・・前へ、後ろへ・・・頭を床に着けてやる!」と言って、メリザンドの髪を掴みながら、まるでおもちゃのように彼女の頭を乱暴に振り回し始めた。

その様子に尋常ならぬものを感じたアルケルは、「ゴロー・・・!」とあわてて止めに入った。

すると、ゴローは嘘のように冷静となって、「この行為をどのように解釈していただいても結構です。特に意味のないものでしょうから・・・だがわしはスパイ行為などしておらんぞ・・・偶然を待つのだ・・・そしてそうなったときは・・・その時こそ、皆がそうするように・・・それが世のしきたりであれば!(注12)」と、謎の言葉を残して部屋を後にした。

アルケルは「あれは酔っていたのか・・・?」と不思議がったが、メリザンドが「もう彼は私を愛していません・・・もはや私は幸せではありません・・・幸せどころか・・・(注13)」と嘆くと、彼は「私が神であれば、人の心というものに不憫をかけようものだが・・・(注14)」と憐れみを込めて言った。


<第3場:城のテラス>
−オペラ:第3場−

第4幕第3場:テラスから下を見るイニョルドと、テラスの下にいる羊の群れと羊飼い

その日の夕方、城のテラスでボール遊びをしていたイニョルドは、城の敷石の間に大切な金色のボールを落としてしまい、それを必死になって敷石を持ち上げてでも拾おうとししたが、子供の力程度ではびくともしない敷石の間に奥深く入り込んだボールはなかなか取れなかった。

そうしていると、遠くから羊の鳴き声が聞こえてきた。

その声を聞いたイニョルドは、それに惹かれるかのようにボールのことをすっかり忘れて、テラスの下を通る羊の群れの行き先をテラスの上から熱心に見るようになった。

そして、ある時を境に羊が全く鳴かなくなってしまった。

イニョルドは不思議がって、羊が鳴かなくなった訳を羊を引き連れていた羊飼いに聞いたところ、羊飼いは「家畜小屋に向かう方向ではないからだよ(注15)」と見えなくなりそうなところから答えた。

「それじゃあ、何処へ行くの・・・」と聞いてみたが、もう羊飼いとその羊の群れはもはや声の届かない距離まで移動してしまったようで、答えは返ってこなかった。

そうしているうちに空が暗くなり、夜の訪れを知ったイニョルドは「誰かに何か言ってこよう」と、言って城内に戻っていった。



<第場:城の外苑>
−オペラ:第4場−

第4幕第4場:城の外苑で手を繋ぎ合うペレアスとメリザンド

日中に交わした約束通り、ペレアスはメリザンドと最後の夜を過ごすべく、城の外苑にある「盲目の泉」の前に来ていた。
僕は今まで何も知らず、子供のように運命の罠の周りで遊んでいた・・・それを気付かせたのは誰なのか・・・僕は今そこから歓喜と苦悩の叫びを上げながら逃げだそうとしている・・・父は危篤から脱した・・・もう自分の気持ちを偽る必要なはい・・・(注16)あの人はなかなか来ないな・・・いっそ合わずに去った方がよいのだろうか・・・いや、それではダメだ・・・最後にもう一度あって伝えねば・・・まだ言ってなかったことを全て伝えないと(注17)
と、独白するペレアス。
彼は旅立ちの前にメリザンドに一目会って、どうしても言いたいことがあったのだ。

そこへメリザンドが約束の時間より遅れて会いに来た。

ペレアスは塔の窓から見られないよう、メリザンドを月の光の差さない木陰の下に導こうとするが、彼女は明るいところがいいと言い、いっそ見られた方がいいとまで言った。(注18)
メリザンドの不思議な言動にいぶかりつつも、ペレアスは遅れた理由をメリザンドに聞いたところ、ゴローが悪夢にうなされていて、寝静まるまで
時間がかかった上に、城門の釘に服を引っかけてしまい、取るのに手間取ってしまったためだという。
走ってきたためメリザンドの息遣いも少し荒くなっていた。
自分のために息を切らせて走ってくれたメリザンドの姿にペレアスは泣きたいぐらいの気持ちにも関わらず、つい笑顔を見せるほどの感動を覚えた。
しかし、そうやって時間が経ってしまったため、外苑から城内に通じる門の閉門まで1時間ぐらいしかなかった。とにかく時間がない・・・

メリザンドは以前何ヶ月も前にペレアスと一緒にこの辺に来た思い出を話したが、ペレアスは「あのときは知らなかった・・・」(注19)と言って、「遠いところへ行かないといけないから、もうこれっきり会えなくなる」と、今生の別れを告げ始めた。
メリザンドは「なぜいつもそう言うの?」と聞くと、ペレアスは「知らないのだね・・・なぜそうしないといけないのか・・・」と言って、いきなりメリザンドを抱き寄せてキスをし、「愛してる・・・」とささやいた。
メリザンドはそれに応えて「愛してる・・・私も・・・」と、ほとんど聞き取れないような小声でささやいた。(注20)

そのささやきにペレアスは激しく感動を覚えた。
メリザンドはペレアスに会ったときから好きだったと告白し、ペレアスは「僕を喜ばせようと嘘を言ってるんじゃないか?」と聞くと、メリザンドは「いいえ、あなたには嘘は言わない・・・あなたのお兄様(ゴロー)にしか嘘は言わない・・・(注21)」と、ペレアスの問いを否定した。

そして、二人が多くの愛の言葉を交わしていると、城門の方向から重苦しい音が聞こえた。
外苑から城内に入る門が閉まったのである!
門を縛る鎖と門に掛ける閂(かんぬき)の音が聞こえた。
これで城へ帰ることが出来なくなったようだ。(注22)

いよいよ覚悟を決めたペレアスはメリザンドと改めて抱き合い、愛の言葉を投げかけたが、その時メリザンドは背後に誰かの気配を感じた。
「君の心臓の音しか聞こえないよ」と言うペレアスであったが、メリザンドは枯れ葉を踏む音と、自分たちの影の先の木陰にいるゴローの姿を見逃さなかった。

第4幕第4場:城の外苑で抱き合ってキスするペレアスとメリザンド、その影の先にある木陰に剣を持ってかまえるゴローの姿

メリザンドに指摘されて、やっとゴローの姿に気が付いたペレアスであったが、彼はその手に剣を持っており、今にも飛びかからんとしている様子だった。
一方のペレアスには剣がなかった。(注23)

キスシーンを見られたと思った二人は、その場を逃げようとせず、とりあえず気付かぬふりをしていたが、ついにゴローが動き出したのを見ると、ペレアスはメリザンドを逃がすために自分が盾になろうとした。
しかしメリザンドは死を覚悟して、改めてペレアスと抱き合った。
ゴローがいよいよ迫ってくる!

二人は夢中になって抱き合い、「やってきたよ・・・口づけを・・・!」「ええ・・・嬉しいわ!」「ああ・・・星々がみんな落ちてくる・・・!(注24)」「私にも・・・!」「もう一度・・・ほしい・・・与えて!」「ええ・・・全てあげるわ!」と、二人が今生の別れとなる愛の言葉を交わした。

その直後、ついにゴローが二人の目の前まで迫ってきた!

メリザンドをかばうようにゴローの目前に出るペレアス、そのペレアスを無言のまま剣でひと突きにするゴロー、叫び声一つあげることなく倒れたペレアスを尻目に、「駄目だわ・・・意気地なし・・・!」と言ってその場を逃げ出したメリザンド(注25)、そして終始無言のまま彼女を追って行くゴロー(注26)・・・全てが一瞬の出来事であった。

 

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