(C) 関西シティフィルハーモニー交響楽団
(アマチュアオーケストラ,大阪市)

ペレアスとメリザンド
− 注釈集(第1幕) −


 

(注1)第1幕第1場の役割

この場の話は、この戯曲のストーリーには直接関与していないため、見なくても特に鑑賞の支障にはならない。
そのため、ドビュッシー作曲のオペラ「ペレアスとメリザンド」(以下「オペラ」と略)では省略されている

これは、おそらく当時のオペラや演劇の構成上の慣習、つまり第1幕の最初のほうを予告編のような、筋書きにあまり関与しない内容にして、遅れて入場した観客がその後のストーリーの把握に困らないようにしていたということの一環であると考えられる。

ただ、女中がその後の展開を先読みしているかのように、水で城門を清める行為が、その後のストーリー展開上で重要なキーワードとなる「水」と「大きな出来事」を暗示している点では、かなり重要な「予告編」であると考えるべきだろう。

また、これらの女中の行為は最終の第5幕でも見出されることとなり(メリザンドの死を予見して終の床へ赴き祈る)、単なる召使いであるはずの彼女たちも、実はただならぬ存在であることを窺い知ることが出来る。
(邦訳者の杉本秀太郎氏は、女中たちが、水の女神たるメリザンドの従者(水の精)であると推察している。)

ちなみに、オペラでの彼女たちは第5幕にしか登場せず、しかも台詞のない黙役であるため、彼女たちに対して聴衆の受ける印象は全く違うものになるだろう。

戻る

(注2)この戯曲の舞台設定

原作のどこにも時間や場所を特定できるようなト書きはないが、細部の設定(王城や、矢、剣など)から、中世(もしくは近世)のヨーロッパを想定していると思われる。

戻る


(注3)女中たちの予言

これらの台詞は、これから起こりうる「メリザンドの入城」、はては「ペレアスと、それに続くメリザンドの死」など、この戯曲全体の流れを予言しているものと思われる。

なぜ、単なる召使いに過ぎない女中たちが、これだけの事実を予見し得るのかは分からないが、上記(注1)のように、彼女たちがメリザンドの従者たる「水の精」であると考えれば、ある程度は納得できる。

戻る

(注4)門を水で清める

ありったけの水で門を清める行為は、これから「水」がストーリーに深く関わってくることを暗示している。

戻る

 

(注5)「とある森」の場所

これ以外何のト書きもないため、場所の特定は出来ないが、第3場の手紙に「船橋から、海に面した城の塔の明かりを確認する・・・」とのくだりがあるため、海外(アルモンド国外)の森であることが予測される

では、アルモンドも森で囲まれていて狩りには困らないはずなのに、わざわざなぜ海外まで赴いたのか?
おそらく、その後のストーリー展開から察するに、以下の2パターンが考えられる。

1.外国遠征(戦役または調査)の折りに狩りをしていた。
    (当時アルモンド国は、周辺各国と緊迫状態にあった可能性が高い。)

2.国内を飢饉が襲っていたため、十分な獲物がなかった。
    (国内の深刻な飢饉については、その後の話で何度か出てくることとなる。)

戻る

 

(注6)「ゴロー」の名前に関する外伝

「ゴロー(Golaud)」の名前は、プッチーニ(ドビュッシーと同時代にいたイタリアのオペラ作曲家)作曲のオペラ「蝶々夫人」の登場人物の一人「ゴロー(Goro)」の名前のもととなったとの説がある。

ただ、日本語表記は同じでも、スペル(と微妙な発音)が違うので、真偽については何とも言えないが、オペラ「蝶々夫人」作曲者のプッチーニが、ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」や、彼の音楽に深い感銘を受けたという、(プッチーニの音楽性を知る上でも)興味深い話があるということから、あながちデマとも言えないところもある。

戻る

 

(注7)「泉」のほとりで泣くメリザンド

この場面で、すでにメリザンドと「水」の関係が深いことが暗示されている。

戻る

 

(注8)メリザンドに指一本触れられなかったゴロー

この場でゴローがメリザンドに触ったのは、初めに肩を触った時のみで、その後はメリザンドの強い拒絶にあって、指一本触れることも出来なかった。

このことは、後にメリザンドがペレアスにこの場面のことを話す時に、「私にキスしようとした」と、全く事実と違う形でペレアスに伝えている
少なくとも、このときゴローがメリザンドにキスしようとしたという素振りは全く見られない。

戻る

 

(注9)名前以外語られぬ素性

実は、ゴローはメリザンドに自己紹介をした後、彼女に年齢を聞いたのだが、彼女が素っ気なく話題を変えてしまったため、それ以上彼女の素性は聞き出せなかった

本来なら、そこから更に色々と素性を聞き出そうとしていたのだろうと考えられる。
また、(第3場の手紙の内容より)彼女の容貌は王女のようであり、王冠も持っていたということから、ゴローがメリザンドのことを外国の王女だと考えて、対外戦略上の立場から調査しようとしていたと深読みすることも出来る。(だから滅多に彼女を刺激しなかった考えることも出来る。)

戻る

 

(注10)メリザンドに王冠を与えた「あの人」

結局、最後まで謎のままで、それ以上語られることもない。
王冠の話すらこれ以上出ることもない。

戻る

 

(注11)「私も迷ったのだ・・・」は運命を暗示する台詞

この不安感をあらわにした台詞は、森の中で道に迷ったという意味以外にも、この先の自ら(もしくはこの戯曲の登場人物全体)の運命に対する漠とした不安をも暗示している。

戻る

 

(注12)ペレアスの手紙を読み聞かせるジュヌヴィエーヴ

アルケル王はほとんど盲目に近いため直接手紙が読めない。
よって、ジュヌヴィエーヴが読み聞かせているのだが、この手紙はゴローがペレアスに宛てたもののはずなので、本来はペレアスが読んでもいいものである。

その理由は、同時に届いた瀕死の親友マルセリュスからの手紙の内容が、あまりに逼迫していた(一刻も早く生きている内にペレアスに会いたい)もので、ゴローからの手紙を二の次にしてしまったためであろう。
(多分ロクに読まず、母のジュヌヴィエーヴに渡して判断を一任してしまったのだろう。そのことは第2幕第1場でも暗示されている。)

戻る

 

(注13)アルケル王の政略結婚計画

アルケル王は、長年争ってきた隣国の王女ウルスラ姫をゴローと再婚させるつもりであった。
(ゴローの先妻は一人息子のイニョルドを残し、既に亡くなっている。)

それによって、「独身では通せない(とアルケル王が語っている)」弱さを持つゴローへ新たな伴侶を与えると共に、隣国との長年の争いにも終止符が打てるという、まさに一石二鳥の計画であった。

ちなみにオペラでは、この政略結婚に関連した台詞は全てカットされており、戯曲に垣間見られる政治色が払拭されている。

戻る

 

(注14)「裏側しか見えぬ運命には逆らわない」アルケル王の哲学

このアルケル王の台詞は、原作者メーテルランクの運命に対する哲学そのものを代弁しているものであろう。

要するところ、アルケル王に見えるのは、(ゴローとメリザンドの結婚など)行為の表側だけであって、その裏にある運命(の表側)までは見ることが出来ないと言うことであろう。
同時に「行為(出来事)」と「運命」が表裏一体であることも示唆している。

この戯曲全体に流れている強力な「運命」や、それを暗示する出来事については、話の随所に現れている。。
(詳細はその箇所が現れたところで紹介する。)

戻る

 

(注15)親友第一のペレアス

(母親に丸投げしてしまった)ゴローの手紙のことには触れず、いきなり親友マルセリュスのことを言っていおり、その後も親友の手紙の内容や親友のもとに行きたいというばかりで、ゴローの話題をしようともしない。

いかにペレアスにとってこの親友が大事かが分かるところではあるが、(異父兄ではあるが)身内のゴローのことも一大事であるにも関わらず、それを二の次にしてしまうことから、彼の自分勝手な面が早くも現れている
(普通は母親にゴローの件についても聞くべきところであろう。)

また、この事実は、ペレアスがゴローに対して、実際のところあまり身内感覚を持っていないことを暗示している。

戻る

 

(注16)アルケル王がペレアスを引き留めた理由

「これから何が起こるか分からない」という、これからの行く末に対する不安感があっても不思議ではない。
何せ、素性不明の少女が王族として自分の城に入ってくるのである。
きっと巨大な「運命の表側」を彼は感じ取っていたのだろう。

また、ごく普通に考えると、ペレアスは自分の瀕死にある父親と結婚してしまった兄(強いてはそれに悩む祖父や母まで)をほったらかしにして、他人のもとへ行こうとしているのだから、アルケル王にとっては、身内として王として、このようなペレアスの自分勝手な行動を許せなかったところもあるのだろう。

戻る

 

(注17)ランプを点す

これはゴローの手紙にあった、結婚承諾の証である「海に面した塔に点すランプ」のことであろう。

母親のジュヌヴィエーヴは、ゴローのことをちゃんと忘れないでいたのである。

戻る

 

(注18)いつの間にか馴染んでしまっているメリザンド

第3場からある程度の期間が過ぎたと考えられる。

つまり、帰国(?)の際に結婚承諾の証を確認したゴローはメリザンドと共に入城し、メリザンドも新たな王族として快く迎えられたのだろうと考えられる。

ただ、メリザンド本人は入城した際にかなりの不安感を持ってしまったらしいが、ここではその話は一切出てこない。
(入城した時のメリザンドの様子は、本人ではなくアルケル王が第4幕第2場で語る。)

戻る

 

(注19)私を乗せた船

おそらく第3場の時点でゴローとメリザンドを乗せてきた船のことであろう。

何ともないシーンではあるが、メリザンドを乗せてきた船が出航し、難破するということは、彼女がもう二度と元の場所に戻れないということを暗示していると考えられる。

戻る

 

(注20)旅立ちを告げるペレアス

こう言っておきながら実は旅立たない

おそらく、再度親友のもとへ行こうと王に許可を求めたが、拒否されてしまったのだろう。
(その辺の話は出てこないが、第2幕第1場ではいきなりメリザンドを王城外苑の盲目の泉に案内している。)

ペレアスは自分勝手ではあるが、祖父の言うことには逆らえないという、兄ゴローとは違った弱さを持っている
ただ、これも逆らえぬ「運命」によるものと考えることが出来るが。

戻る