アフロ・アメリカン系音楽の特徴

〜音楽の原風景から現代へ〜

 アフロ・アメリカ系音楽には、それまでの西洋音楽にはない、いくつかの特徴があります。その特徴は、アフロ・アメリカンの先祖たちがアフリカで奏でていた音楽にその源泉をたどることができます。

 一口にアフリカといっても広い大陸です。地域ごとに異なった音楽文化が息づいています。そして、西のサヴァナの弾き語りの音楽はブルースに、熱帯雨林の強烈なドラムのリズムを伴った呼応形式の舞踏音楽はジャズに、南アフリカのムブーベ合唱はスピリチュアルに、それぞれ影響を与えたといいます。

 西インド諸島の砂糖きびプランテーションでは多人数の奴隷が私生活に関しては農場主の干渉をあまり受けることなく生活していましたので、部族ごとに集まり音楽や舞踏に興じていた様が記録されています。しかし、アメリカでは比較的少人数単位の奴隷が、部族ごとに集まることを制限されながら暮らしていました。ですから、奴隷同士のコミュニケーションの手段となる音楽も、必然的に最大公約数的なものになったと考えられます。それでは、以下にその最大公約数の部分をみていきましょう。

<ブルー・ノート>

 アフロ・アメリカ系音楽では、音階の第3音と第7音(長音階ではミとシの音)が低くなる現象がみられます。この低くなった音をブルー・ノートといいます。バップ以降のジャズでは第5音(長音階ではソの音)も低くなります。

 時としてこのブルー・ノート、半音低くなると解説されることがありますが、必ずしも半音下がるとは限りません。和声の響きからはずれるだけ下がればブルー・ノートといえるのです。

 ブルー・ノートの発生は、アフリカ音楽と西洋音楽の音階の違いに起因します。アフリカ音楽には、オクターブの間に5種類の音がある5音音階が広くみられます。この5音音階自体は、何もアフリカだけで見られるわけではありません。たとえば日本でも、4度と7度の音を抜いた、いわゆるヨナ抜きの音階(ドレミソラド)の曲が広く愛されていますし、沖縄民謡はドミファソシドの音階で書かれています。

 アフリカにもいろいろな種類の5音音階が存在しますが、その多くでは根音(長調ならドの音)から長3度および長7度の音(ミとシの音に相当)が欠落しています(半音下がっている例も多いのです)。そして、多くの場合、音階の中の音同士に半音の音程を持ちません(日本のヨナ抜きにも半音の音程はありません。それに反して、沖縄の音階には2つの半音の音程があります)。このあたりが、西洋音楽の機能和声に基づく音楽と大きく異なっているのです。

 機能和声とは、主和音(ドミソ)、属和音(ソシレ)、下属和音(ファラド)の3和音と、それぞれの代わりとなる和音が、ある決まり(カデンツ)にしたがって進行し、音楽を形成するというものです。このカデンツの中で、ミ→ファとシ→ドの二つの半音は、和音を進行させる大きな原動力になるのです。しかし、アフリカの音階では、この重要なミとシの音が存在しないのです。たとえば、小学校で音楽の先生が弾くもっとも単純なカデンツ、主和音ー属7和音ー主和音を例に取りましょう。メロディーとしてはドーシードと聞こえるでしょう。この、丁度お辞儀をしている状態のシの音の、半音上のドの音にあがりたいという感じから、半音上のドの音に変わることで、安心して頭を上げることができるのです。もしシの音が半音低かったら、机の上に頭をぶつけそうな感じでしょう?

 とはいうものの、西洋音楽を学んだアフロ・アメリカンは正確にミとシの音程を取ることができます。彼らがそうしないのは、音楽上の理念の違いなのです。

 西洋音楽は、起承転結のあるドラマです。最後にはエンディングが用意されているのです。しかし、アフリカの音楽は違います。ドラムの響きは無限の過去から無限の未来に続くものなのです。実際、アフリカの舞踏音楽では、独唱と合唱がいつ終わるともなく歌い続けます。彼らの音楽の中では、時間を切り取り、その中で発展的に解決を遂げるという西洋的発想はないのです。アフロ・アメリカンの影響を受けた音楽が録音をされるようになったとき、フェード・アウトという技法が用いられるようになったことは、そのことをはっきりと示しています。音楽が完結する場合でも、主和音にいったん落ち着いた後で別の和音に変わったりします。彼らは和音を駆使しますが、和音に支配されません。つまり、ブルー・ノートとは、こうした西洋的な価値観への抵抗の印なのです。

<リズム>

 アフリカの音楽も、西洋の音楽も、基本的に倍数的なリズム構成を持っています。つまり、あるリズムの反復の形を取ります。しかし、そのリズムのユニット(西洋音楽的には、小節)の中身がアフリカ音楽と西洋音楽では大きく異なるのです。

 西洋音楽では、1拍目は強拍、というようにアクセントの位置が規定されています。これに対し、アフリカ音楽では拍の強弱は全く平等です。どこに強拍がきてもいいのです。ここから、アフロ・アメリカンの音楽に特徴的なシンコペーションのリズムが生まれました。

 また、アフリカ音楽には、3拍子と4拍子が同時に刻まれる、というようなポリリズムの音楽が広く認められます。いわゆる二拍三連のリズム(譜例1)に関して、クラシックの演奏者は譜例2のように感じて対処します。そして、ジャズでは譜例3のように扱うのですが、アフリカの音楽奏者はただ正確無比にこのリズムを刻めるというのです。ちなみに、譜例3のリズムこそ、サンバとチャールストンのリズムです。

<メリスマ>

 いわゆる、コブシです。アフリカ音楽はソロと合唱の単純な繰り返しであることが多いのですが、同じメロディーは繰り返すたびに様々な節回しで色づけされていきます。つまり、ジャズやソウルに見られるインプロヴィゼーション(即興演奏)の要素は、ここにその源があるのです。




(C) 関西シティフィルハーモニー交響楽団

(アマチュアオーケストラ,大阪市)